木魂神社
 
 
 木魂神社の拝殿。県道209号線から分岐する車道の参道を500mほど登ると、拝殿に向かって左手に至りますが、本来の参道は拝殿の正面に山道のような歩道として延びています。
 拝殿に至る石段の袂に、狼像が置かれています。
 
 拝殿向かって左手にあるのが阿形。全体的なフォルムは、細かなディテールを省いたような、素朴でなだらかな造形に仕上げられています。
 さて、この写真を見て、もしかしたら(どこかで見たことがあるような・・・)と思う人もいるかもしれませんが、この狼像の造形、秩父市の荒川贄川にある柊木神社の狼像にとてもよく似ています。その点も加味して紹介していきたいと思います。
 
 この阿形像で一番の特徴が、右前脚に抱えた子狼です。子狼は全体的に丸みを帯びたフォルムの中に、顔や耳、母狼の前脚に掛けた自身の前脚なども細かく彫り込まれています。
 この子狼を右前脚に抱えている点も、柊木神社のものとの共通項ですが、子狼の形状や抱える位置に多少の差異が見られます。
 
 阿形を正面から。このアングルでのシルエットも柊木神社のものとよく似ています。
 
 阿形の頭部。目の造形が、輪郭線を筋彫りで表現したものですが、この特徴も柊木神社と共通しています。また、口や牙の造形、頭部全体のシルエットもとてもよく似ています。
 
 そして、全体のシルエットの中で最も特徴的に見えるのが、肩部分の造形です。両肩と、そこを繋ぐ胸元がフラットな状態で前方に張り出した造形は、やはり柊木神社のものにも見られるものです。
 
 右側面から。前方に迫り出した方のせいか、かなり胸板が厚いような印象を受けます。
 
 阿形を背後から。特徴的な尾の造形です。狼像の背中によく見られる、あばらの浮いた造形はありませんでした。全体的にシンプルな造形が故でしょう。
 
 そして、この狼像において珍しいと思った点が、この尾の形状です。通常、狼像の尾は、直線的やうねりがあるなどの形状の細かな差異はあるにしろ、後脚に回り込むようにして前方に伸びる造形が一般的なのですが、この狼像は、背筋に沿って真っ直ぐ跳ね上がった形状となっています。狼像としてはこの尾の形状は初めて見る気がしますが、どちらかと言えば稲荷神社の狐のものに印象が近いように思います。
 ちなみに、今回比較対象として挙げた柊木神社の狼像も、尾の形状については狼像としてスタンダードな前方に回り込むタイプで、その点においてはこの木魂神社のものとは異なってます。
 
 もう1体の像、社殿向かって右側に置かれたこちらが吽形。
 全体的なフォルムはやはり柊木神社のものととても似ていますが、こちらの像が両前脚を真っ直ぐに伸ばしているのに対し、柊木神社のものは阿吽で向かい合って対となるよう、左前脚を「く」の字状に曲げているのがこの像との相違点です。
 
 吽形を正面から。
 
 吽形の頭部。やはり全体的なシルエットは柊木神社のものととてもよく似ています
 
 特徴的な肩の形状。柊木神社のものとの共通点として、一番目につくのがここではないかと思います。
 
 吽形を左側面から。背中の角度は柊木神社のものよりも真っ直ぐに立っています。
 
 吽形の背面。やはりこの形状の尾の造形は、狼像としては珍しいと思います。
 
 苔に覆われた阿形のものよりも、尾の形状がはっきりと分かります。
 
 この狼像、いつ頃奉納されたものなのだろうと台座を見てみると、「大正十二年」と記されていました。なかなかに年季の入ったもののようです。ちなみに、贄川の柊木神社の狼像の奉納は昭和10年で、造形的にはこの木魂神社のものを参考にしたのは間違いないのではと思います。同じ石工の作である可能性も考えましたが、年代の差や、細かな造形の差異からみて、やはりこの木魂神社のものを模倣して、違う石工が造ったのが柊木神社の像なのではないかという気がします。
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 この木魂神社、狼像を求めてやってきたのですが、神社そのものは狼信仰というわけではないようで、創建は天狗を由来とするものらしく、毎年5月に行われる例大祭は「津谷木のお天狗様」よ呼ばれているそうです。参道に掲げられたこの由緒書きの他に、参道改修記念碑や霊鐘由来の碑などもありましたが、どれも狼信仰についての記述は見られませんでした。
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