昭和22年”改修”の林道へ
2016/06/19 埼玉県飯能市・妻澤林道
 
 先日、こちらのBBSに一本の未知の林道についての情報が書き込まれた。
 妻澤林道というその道は、原市場郵便局近くの小路を入った先に石碑が立っているそうで、その情報をもとにストリートビューで周囲を見てみると、すぐにその石碑を発見することが出来た。あとは現地へ向かうだけだが、ここ最近ずっと忙しい日々が続き、とてもツーリングに出かけられるような状態ではなかった。しかし、梅雨時のどんよりとした空模様ながらなんとか雨には降られずに済みそうなこの日、普段の林道ツーリングでは考えられないような午後からの出発ではあったが、居ても立ってもいられずに、半ば無理矢理に時間を作って現地へと出掛けてきた。
 
 ここは飯能市原市場地区、県道70号線だ(現在地)。写真中央部、この信号から分岐する道の入り口にBAJA君が停まっているのが見えると思う。
 
 ここが妻澤林道の入り口だ。妻澤林道の開設当時、林道としての起点がどこだったのか正確なことは分からないが、今回は暫定的にここを起点として扱おうと思う。
 
 その起点から100mと進まないうちに、道は小さな川を跨ぐ短い橋に至る。
 
 銘盤がひしゃげてしまってはいるが、峯の瀬橋という。この反対側に付けられたプレートによれば、昭和44年8月竣工とのことだ。
 
 そして、この橋が掛る川が「妻沢川」だ。民家の脇を川が流れているこのシチュエーションって、ちょっと憧れるな。
 
 その橋を渡り切ったところに、一本のコンクリート柱が立っているのに気付いた。途中で折れてしまったのか、最上部をセメントで補修してあるが、この状態のものを撤去せずに残してあるのは、これがそれなりに歴史のある貴重なものという認識のうえでのことなのかも知れない。
 
 柱にはそこそこ凝った装飾が付けられているんだけど、一体何の為のものだったんだろう?街灯でも下げるための支柱だったのかとも思うけど、こういうものの意匠に凝るのも、とかく合理性を求められがちな現代では求めるべくもないことだよなあ。
 ・・・と、そんな寄り道もそこそこに、ここからあとほんの少しだけ先に進むと、先ず今日の目的の一つがある。
 
 それがこれだ。
 
 道の脇に、ゆうに2mを超す背丈で聳えるこれこそが・・・。
 
 
妻澤林道改修記念碑である!
 
 この道、まだ俺が林道ツーリングを始めたばかりの頃、林道を探して手当たり次第脇道に突入していた頃に入った記憶はあるのだが、その時は起点標識が無かったこともあり、道の最後まで辿らずに引き返していたと思う。しかも当時は石碑になんて気に留めることも無かったので、仮に当時これを見ていたとしても、全く意識することなく通り過ぎていたのかもしれない。
 
 この石碑、表面には「妻澤林道改修記念碑」の文字の他には寄付者の名前が書かれているだけだが、裏面にはこの改修工事の期間や予算、そしてこの道の延長などの情報が記されている。
 それによれば、このときの改修工事は昭和21年1月から同22年3月に掛けて行われたようで、この石碑も竣工と同じく22年3月に立てられたとのことだ。
 そして、既に書いている通り、このときの工事は林道の「改修」工事で、つまりそれ以前からここに林道が存在していたということであり、この妻澤林道、かなり歴史のある道のようだ。
 これは推測だが、昭和21年という時期を考えると、恐らくはもともと牛馬に曳かせるような木馬道レベルで存在していた林道を、戦後の木材重要の高まりに対応するため、車道規格の林道へと改修したのではないだろうか。
 そして先程の峯の瀬橋が昭和44年竣工ということは、この林道の改修当時は、もっと簡素な木橋でも掛っていたのだろう。
 
 なお、この妻澤林道、どう考えても民有林林道だと思われるので、正式な表記は「林道妻澤線」となるのだろうが、はっきりとその確認を取った訳でもないし、今回は石碑上の表記を尊重して「妻澤林道」として書かせていただく。
 
 そんな妻澤林道だが、平成の現在ではどんな姿となっているのだろう。今日はこの道の終点まで到達してみよう。
 
 道の脇には妻沢川が流れ、エンジンを止めると足元から微かな沢音だけが響く。
 
 道沿いには終始民家が立ち並び、あまり林道らしさは感じない景色が続く。とはいえ、こういう景色の林道は他にもたくさんあるし、そのうち民家も途絶えるだろう。
 
 いや、途絶えるどころか・・・何か普通に町みたくなってねーか?写真にこそ撮らなかったものの、この先にはサバイバルゲームの屋内施設のようなものもあり、とても行き止まりの道とは思えないような、あまりにも林道のイメージとかけ離れた景色に変わり、思わず道を間違えたかと思ってしまい、ここで地図を見返してしまった。
 この道はあれだな、既に林道としての役目を終えて、飯能市道にでも編入されてる可能性が濃厚だな・・・。
 
 それでもその先へと進むと、次第によくある舗装林道らしい景色に近づきはするのだが、それでも民家は途絶えることなく建ち並んでいる。
 ただでさえバイクを停めて写真を撮ることを躊躇するような区間がずっと続いてテンションが下がっているところへ、この辺りで突発的に大粒の雨が叩きつけてきた。その雨はすぐに止んだが、既に(俺、なにやってんだろう???)というかなりネガティブな気分になってしまった。久々の林道だというのに(笑)。
 
 それでも、その先でようやく道の両脇を杉林に囲まれた「いかにも」な区間になった。そうそう、俺が求めてる林道ってこういうのだよ(笑)。
 
 途中、道の脇に「この先行きどまり」と書かれた看板があったが、これは右手に分岐する(恐らく民家へと続く)道に対して立てられたものだろう。こちらの本線もどのみちこの先行きどまりではあるのだが。
 
 そろそろ終盤に差し掛かり、道は再び橋を渡り、川は道の右手に移る。左手には荒々しい削り出しの法面が聳え、だいぶ林道らしい景色を見せるようになってきた。
 
 道はここで、この道沿いの最後の民家へと向かう道と枝分かれし、いよいよここから先は未舗装路となる。
 
 しかし、その分岐からほんの数十m先で・・・。
 
 遂に行き止まりとなった。
 (暫定とした)起点からBAJAのメータ実測で約2.3km、改修記念碑に書かれていた延長が「二千米」だったので、妻澤林道改修当時の総延長とほぼ相違ないだろう。
 
 そして、この行き止まりと思われた地点に、「この先通行禁止」と書かれたバリケードが置かれている。つまり、この先にも道があるってことか?
 「(自転車・歩行者を除く)」とは書かれているので、どんなもんかちょっと歩行者になって入ってみましょうかね・・・。
 
 むう・・・いきなり倒木とか見えてるんですけど・・・。
 
 路盤を見る限り、嘗ては作業道程度の規格として開削されたであろうことは何となく伝わっては来るが、こんな倒木が放置されているところ見ても、もう長いこと使われてはいないのだろうな。そもそもここまでの道があんな様子なので、「長いこと使われてない」どころか、ここもとっくに役割を終えた廃道なのだろう。
 
 その先を見ると、まだしばらくは続いていそうにも見えなくも無かったのだが、ここまでにあんな市道のような道を辿り続けて、この時点でかなりのローテンションになってしまっていたし、なによりいつ降り出してもおかしくない空模様と日々の蓄積された疲労とが相まって、もはやこの先へと進む気力は、今の俺には残されていなかったのであった(笑)。
 
 ちなみに、今回レポを書くにあたって「今昔マップ on the web」でこの周辺の地図を調べてみたところ、まさにこの妻澤林道の改修を始めた昭和21年発行の地理院地図を見ることが出来た。そこには、建設中の道として既にこの林道が記されていたが、その地図によるとこの妻澤林道の終点は、何とここから県道70号線をもう少し進んだ先にある林道蕨入線に到達するように書かれていた・・・!
 現在の地図には、今では廃道となったここから先の区間は当然書かれてはいないが、うーん、やっぱり無理してでも歩いて進んで見るべきだったかなあ、気になるなあ・・・。
 
 それじゃBAJA君、引き返そうか。
 
 このBAJAを停めた地点の脇には、このすぐ下にある民家のものだと思わしき資材置き場のようなものもあり、それもあって、あの作業道に入りこむ気持ちになれなかったということもあった。
 この道沿いでは至る所に「不審者に注意」と書かれた看板が設置されているのだが、こんな私有地のすぐ脇にバイクを停めて、更に山の中に分け入って行く奴なんて、不審者以外の何物でも無いじゃねーか(笑)。
 
 2km程の道のりを引き返し、石碑の前でもう一度BAJA君と記念撮影。今回のトップページの写真に使うつもりなんだが、なんて地味な絵面だ・・・(笑)。
 
 というわけで、これっぽっちの内容ではあるが、今日のツーリングはこれでお終いだよ!
 ほんの小一時間の探索だったけど、久し振りの林道(?)ということもあってそれなりに楽しかったよ。
 次はまたいつ走りに行けるか分からないけど、今度は景色のいいロングダートを思いっきり走ってみたいねえ、BAJA君。