両面神社のお犬様
2022/09/17 埼玉県秩父市・両面神社
 
 この週末は、本当は晴れていれば春に流れたツーリングのリベンジに出かけるはずだったのだが、あいにく連休の3日間ともあまり芳しくない天気予報のため、またしても延期となってしまった。しかし、土曜の前日になると、思いの外天気は持ちそうな気配に変わっていた。ならば、快晴とは行かなくても、それはそれで行っておきたい場所がある。そう思い、急遽ひとりで出かけることにした。
 
 ここは国道140号旧道、二瀬ダムの手前。今日の目的地はこのまま秩父往還を進んだ先にあるが、久しぶりにここからの景色を眺めたくて停車。で、ここでは何を見たかったかというと・・・。
 
 その二瀬ダムの手前に架かる、この秩父湖大橋だ。かつて、トンネル内に分岐があることで知られた駒ヶ滝トンネルを閉鎖するために、その外側に作られた新道だが、大型トラックまでもがガンガン走ってるのが信じられないような薄い橋桁が、切り立った崖の外側を渡っているこの見た目がすごく好きなのだ。
 ちなみに、このタイプの橋の工法を、「メタルロード」というそうだ。メタルロード、なかなかイカす名前じゃねぇか・・・!
 
 秩父湖大橋での長い信号待ちを経て、そのまま秩父往還を直進すると、やがて天空の集落とも称される栃本集落へと至る。
 
 その栃本集落にある栃本関所跡の脇から分岐する道がある。目的地はこの奥だ。
 
 分岐を少し進むと、林道栃本線の起点が現れる。ここへ来るのももう10年ぶりとかになるのかなー。
 それはそうと、この地点は林道起点といっても、ここまでの道がそのまま道なりに進んでいるだけだ。後述するが、かつてはあの秩父往還との分岐地点が林道の起点だったのではないだろうか。
 
 林道起点からさらに進むと、程なく道沿いに登山道の分岐が現れる。
 
 うっかりすると見落としてしまうそうな分岐だが、今日の目的地はこの道を登った先にある。
 
山をあまく見ないでください!
 おお、なにやら素敵な看板があるじゃないか!どこかで見たような覚えのある作風だけど、もしかしてこれとシリーズかな?「大滝村」の表記が残っているのもポイント高し!
 
 そのすぐ隣には、こんな物々しい看板も。こんな山の中で物騒だな・・・。
 
 さて、それじゃ行ってみるか。BAJA君、ちょっとここで待っててね。
 
 早速の急勾配だが、目的の場所は、ここを10分程登った先にあるらしい。
 
 おっと、埋もれリス・・・。
 
 道は杉林の中を進んでいく。意外としっかりとした道筋が付いているので迷うことはないだろう。
 
 それにしても・・・少し登っただけで息が上がってきたぞ・・・。まだ登り始めたばかりでこれかよ、リモートワークの影響が如実に出てるな・・・。
 
 そうして、事前の情報通り10分ほど歩いてくると、その先に鳥居が見えてきた。
 
 おお、着いたぞ・・・!
 
 ここが本日の目的地、両面神社だ。ナノレカワがここに来たということはもちろん、この両面神社は、秩父地方に数多く存在する狼信仰神社のひとつだ。今日はこの両面神社のお犬様を見て行こう。
 (ちなみにこの鳥居、ウェブで見た写真では鉄のパイプで補強された状態のものを見ていたのだが、今日来てみると、真新しく見えるしっかりとした状態となっていた。どうやら2019年頃に鳥居の掛け替えが行われたらしい。)
 
 鳥居をくぐると、社務所と思われる建物の奥にお犬様が見えてきた。
 
 拝殿の前までやってきた。この両面神社は、三峯神社の姉妹社とされ、杣人や峠越えの旅人の安全を祈願するために建てられたと言われているようだ。
 
 拝殿の前に、1対の狼像が置かれている。両面神社のお犬様だ。
 
 ちなみに、上記のお犬様は2代目だそうで、初代とされるお犬様が、この拝殿の中に納められている。そちらは後ほど。
 
 それではまず阿形から。太目に作られた首や前脚など、全体的に肉付きが良く、どっしりとした印象の造形となっている。
 
 お顔の造形も、凛々しい表情に髭や毛並み、口の中の歯なども精細に施されている。表情、そして体つきなども含め、神獣的な表現に重きを置いた印象だ。
 
 斜め後ろから。どっしりした造形ではあるが、お犬様像としてよく見られる、脇腹のあばらの造形もしっかりと表現されている。肩甲骨や背骨などもしっかりと作られ、神獣的でありつつも、その体温すら感じさせるようなリアルさも併せ持った造形だ。
 尾は狼像によく見られる、後脚に回り込むような形状となっている。
 
 ちなみに、阿形の前掛けには蝉の抜け殻が残っていた。何故だか妙に惹かれてしまった・・・。
 
 続いて吽形。こちらも阿形同様、筋肉質な首や前脚など、力強い造形が印象的だ。
 
 吽形のお顔のアップ。他のお犬様の造形では、口を開いて吠えたような作りの阿形よりも、口を閉じた吽形のほうが穏やかな表情に燃えることが多いが、こちらの吽形は、眉間の造形が阿形よりも深く見えるせいか、阿形よりも険しい表情に見えるのが珍しく感じた。閉じた口から覗く牙も、その印象をより強くしているように思う。
 
 吽形を斜め後ろから。尾の造形は、阿形よりもややうねりが強く見える。
 
 ちなみに、個人的な推しポイントが、この台座から少しはみ出たように造られた尾である!生命感のあるリアルな造形と相まって、まるで本当に生きているお犬様が台座の上に腰掛けているような印象を与える効果があると思う。このような造形の狼像は他にもいくつか見られるが、実に素晴らしい処理だと思っている!
 
 そして、この両面神社のお犬様は、足先に至るまで精細に形づくられている。これは後脚の爪だが、精密且つ鮮やかに彫り込まれた小指が素晴らしい。
 
 同様に前脚の指もくっきりと彫り込まれている。もう本当に、惚れ惚れしてしまうね。ずっと見ていても見飽きない・・・。
 
 このお犬様は、前述の通り2代目となるもので、昭和32年に拝殿の建て替えの際に奉納されたものだそうだ。
 
 それでは、拝殿に納められた初代と言われるお犬様を見てみよう。
 
 こちらが阿形。細身に造形され、背筋を伸ばしたその姿は、全身を光沢のある黒で覆われている。脇腹には、やはり狼の痩身体形を表現するあばらの造形が見られる。目元は睨みを利かせたシャープな造形が成され、開いた口の中の歯茎と、耳の中に見える赤い色が、黒い全身の中で一際目立っている。存在感のある黒光りする姿からは実に精悍な印象を受け、拝殿前の狼像とはまた違った迫力を感じさせる。
 
 こちらが吽形。痩身体形に表現された精悍な造形は阿形同様だが、置かれた位置のせいで残念ながら腰より後方を見ることはできなかった。そして、阿吽ともに使える写真はこれ1枚ずつだったのだが、それには拝殿の中に納められていること以外にも理由があった。
 
 実は、拝殿の扉の枠には、このように金網が張られていて、その隙間から辛うじて撮ることが出来た写真が上記のものだった。ああ、もっと近くで拝んでみたい・・・。
 
 ひとしきりお犬様を拝ませていただき、そのまま今日はここでお昼にさせていただくことにした。それにしても、今日は雨に降られなければ御の字くらいに思っていたんだけれど、こうしてお犬様を見ている間はずっと日差しにも恵まれ、いいタイミングで訪れることができたなー
 
 昼飯の後にも、しばらくお犬様を眺めたりしてのんびりと過ごした。結局、1時間くらいここに滞在してたんじゃないかな。こんな山の中だから当然のように他に人影もなく、静かで本当にいい場所だった。
 
 林道へと戻る途中、往きには気づかなかったのだが、足元にたくさんの栗が落ちていることに気づいた。思わず拾って帰りたくなったけど、これは山に住む動物たちのご飯だからなー(笑)。
 
 栃本線を引き返し、その起点から少し下ったところで、林道栃本支線が分岐している。先ほど、かつて栃本線の起点は、あの秩父往還との分岐地点だったのではないかと書いたが、それは、この栃本支線の起点が、栃本線の起点よりも手前にあるからなのだ。元々は、秩父往還との分岐から始まっていた栃本線だったこの位置から、この栃本支線が分岐していたのではないか、という話なんだけど・・・よくよく考えれば誰が興味あんだこんな話・・・。
 その話は置いておくとして、この栃本支線、全長約5.4kmのうち、終盤に500mほどの未舗装区間があったのだが、最近ツイッターで、その手前の位置にゲートが出来ているという情報を見ていた。せっかくここまで来たので、それをこの目で確かめてこよう。
 
 お、この杭、まだ残ってたか!
 
 「林道栃本支線道路」と書かれたこの杭。路線名の後にわざわさ「道路」と付け足しているのが印象的でよく覚えていた。木の杭だったからもう朽ちて無くなっているかも、なんて思っていたけど、まだまだしっかりとその姿を保っていた。
 
 起点から4.4kmほど舗装路を進んでくると、突然ゲートに道を遮られてしまった。ああ、これだ、ツイッターで見ていたゲートは・・・。過去の記録によれば、ここからさらに500mほど舗装路が続いた後、最後にダート区間に入るのだが、そもそもそのダート区間ですら今も残っているのかも分からないが。
 
 まあ、ダートがあろうとなかろうと、今となってはもうどうでもいい話ではあるが・・・。この貼紙を見る限り、徒歩での進入も禁止されているようだ。ずいぶんと厳しくなったなあ。
 貼紙には「東京大学秩父演習林」と書かれている。今まで知らなかったのだが、この辺りも演習林の範囲だったのだろうか?
 
 ともかく、目的だったゲートの確認は出来たので引き返そう。そういえばこの栃本支線には、見ての通り横断歩道と停止線などという、およそ林道には似つかわしくないものがあったりするので、近くにお越しの際は立ち寄ってみるのも良いでしょう(?)。
 
 道沿いにヘリポートのある、少し開けた場所から向かいの山を見ると、その上空にはいつのまにか重苦しい雲が立ち込めていた。今日は雨が降るとしても夜になってからだと思うけど、そろそろ引き上げるとするか。でも、せっかくここまで来たので最後にあと1ヶ所だけ立ち寄って行こう。
 
 そう思って、埼玉県道210号中津川三峰口停車場線の入口までやってきた。ここまで来たら中津川林道に顔をださないわけには行かないでしょ、って思ってたんだけど・・・。
 
 ああっ、そうだった!今月13日にこの先で発生した土砂崩れのために、いま現在通行止めになっているんだった。すっかり忘れてた・・・。
 
 というわけで、今日の両面神社ツーリングはこれでおしまい。結局今日はダートを1mmも走らなかったなー。10月になったらどこか林道を走りに行こうっと。台風来るなよ!