林道雲取線を歩く
2024/05/11 埼玉県秩父市・林道雲取線-①
 
 埼玉県秩父市、大滝地区の国道140号から分かれ、二瀬ダムの天端を通り三峯神社へと至る、県道278号秩父多摩甲斐国立公園三峰線がある。その二瀬ダムからほど近い位置で、秩父湖へ流れ荒川と合流する大洞川に沿って分岐する林道がある。その名を林道雲取線という。
 俺が初めて雲取線に訪れたのは2011年、今からもう13年も前のことになるが、その時点ですでに、起点から8km強の地点でゲート閉鎖となり、それ以降の区間は実質廃道と化し、車両通行止めとなっていた(その後、通行可能区間はさらに短縮されている)。
 先日の金ヶ岳線のレポでもちらっと触れたが、今年はしばらく訪れていない林道をメインに巡ってみたいと思っていて、その中でこの雲取線のことを思い出した。ただ、上記の通り途中でゲート閉鎖となるため、もちろん終点までバイクで行くことはできない。
 
 
「バイクで行けなければ、歩けばいいじゃない❤」
(マリー・アントワネット(1755 - 1793年)・談)
 
 
 そ、そうだよアントワーヌ!歩けばいいんだ!我が埼玉県内の林道の、未だ見ぬその末端を目指して、俺は歩く!
 
 おはようございます。ここは二瀬ダム手前の秩父湖休憩所だ。今日はまあもさんと2人での探索となる。さすがに山深い奥秩父の廃林道のさらに奥地まで1人で行くのもどうかと思い、同じ埼玉県民で山歩きが好きなまあもさんなら興味あるかなと思って声をかけてみたところ、まあもさんも雲取線のことは気になっていたようで、二つ返事で乗ってきた!
 で、今日はここで8時半に待ち合わせだったのだが、時間に余裕をもって出てきたところ、余裕を持ちすぎて予定時刻の40分前には着いてしまった。途中のコンビニでコーヒー飲んだりして時間調整をしてきたつもりだったけど、焼け石に水だったネ・・・。
 
さて、ここからは二瀬ダムが見えている。下のほうでは放水の様子も見えていてなかなかの眺めだが、せっかくここに来たら、右手に見える、メタルロード工法によって造られた二瀬ダム左岸湖岸道路にも注目だ!
 
 で、集合時間まではまだまだあるので、その左岸湖岸道路の脇にある歩道隧道を見に行ったり・・・。
 
 その左岸湖岸道路が開通したことで廃道となった駒ヶ滝隧道を見て時間を潰すかあー。
 ・・・そういえば、この隧道ってこんなに狭かったんだっけ。13年前、初めて雲取線を訪れた日にここを通っていて、その日のレポに

「ダム手前のトンネル内の分岐(ここ結構緊張する)を左に曲がり、県278を三峰神社方面に進むと」

 なんて書いていた。この先には今もあの分岐が残っているんだよなあ。
 ・・・こんなユルユルな閉鎖なんだあ、入ってみたいなあ・・・(ダメです!)
 
 そんなことをしていたら、俺の到着から10分ほどでまあもさんもやって来た。どうやら天気の良い週末なので混んだらいけないと、俺と同じようなことを考えていたらしい(笑)。まあ、行動開始が早まるのはいいことだ。
 ここで、本日の行動予定について少し話をした。ウェブでの情報を軽く見た限り、徒歩で終点まで到達している情報はあるようだが、道中には結構厳しい崩落もあるようで、まあもさあんとは、行けそうなところまでは行き、越えるのが厳しそうな場所があれば無理をせずに引き返すということに落ち着いた。それでは行ってみよう!
 
 二瀬ダムから県道を3kmちょっと走り、林道雲取線の起点にやってきた。
 
 ちなみに、かつてはこの地点から680mまでの区間は林道白石山線という別の林道で、それ以降が雲取線となっていたが、平成7年にその白石山線が雲取線に編入され、現在は県道との分岐から全線が雲取線となっている。
 で、写真の矢印の場所に一本のポールが立っているが、これがどうやら白石山線の起点標識のものだったようだ。もう30年近くも前に消滅した林道の、そのポールだけでもここに残っていることにワクワクしてしまうね・・・!
 
 と、そんな割とどうでもいい(笑)情報を交えつつ、さっそく雲取線を進んでいく。途中、ところどころで道沿いの木々が途切れ、向かいの山が見晴らせる場所があり、ついつい足を止めてしまう。
 
 そこから一気に端折ったが、起点から約3.5km地点の鮫澤橋までやって来た。
 
 俺が以前来たときは、まだこの先もバイクで進むことが出来たのだが、もう10年以上、この地点でゲート閉鎖となってしまっている。現在のこの先は一体どうなっているのだろうか・・・。
 というわけで、現在時刻 8:50。ゲート前にバイクを停め、ここから先は歩いて雲取線を辿っていく。BAJA君とあけみちゃん、ちょっと・・・ではないな、今日一日ここで待っててね。
 
 ゲートを越えると路面は一旦未舗装となるが、これはすぐに途切れ、まだまだ長い舗装路歩きが続く。
 てか、そういえばこの切通し、見覚えがあるような気がするなあ。
 
 道のすぐそばに迫る山の斜面には、深い地滑りの痕が刻まれている。
 
 ゲートから歩き始めて12分、緩やかなカーブの向こうに、路上に堆積する岩石が見えた・・・。
 
 うわあー・・・そりゃゲート閉めるわ。ただ、見たところこの崩落は、起きてからまだそれほど月日が経っていないようにも見える。つまり、鮫澤橋のゲート閉鎖の直接の原因ではなさそうではあるが、要するにあのゲート以降は、もう何が起きても一切復旧の手は入れないということなんだろう。これが現在の雲取線の状況だ。
 
 とりあえず徒歩であれば越えられそうなので、右側の一番低い部分によじ登ると、横たわる木がノコギリで切られていた。これはさすがに管理者の手によるものではないよなあ。これ1本切ったところで大して変わらなかったような気はするけど(笑)。
 
 で、崩落を越えると、その土砂に遮られた沢水が、道幅いっぱいの水たまりを作っていた。そういやまあもさん、ここで片足突っ込んでた気がする(笑)。
 
 その先で再び路肩の木々が途切れ、視界が開けた場所に出た。この辺りは以前BAJAで来た時も写真を撮ったような気がするなあ。
 
 どうですかこの眺め!朝の清涼な空気に包まれた新緑の山々が、実に美しいではないか!
 そういえば、今日こそはAR山ナビ使うぞ!と意気込んでスマホを取り出したものの、この時点ですでに圏外となっていた。さすが廃林道だぜ・・・!
 
 9:12、鮫澤橋を過ぎて最初の橋である樽沢橋に着いた。
 
 この鮫沢に造られた堰堤が実に見事だったのだが、例によって3つの穴で顔に見えてしまうというね。ぱっと見の直感で、何となくデフォルメされたゼウス、といったイメージを思い浮かべてしまった。
 
 樽沢橋を越えて程なく、路肩の崩落によってガードレールが傾いてしまっている地点があった。いよいよ廃道臭が強くなってまいりました・・・。
 
 続いて通過するのは鷹ノ巣橋
 
 ここにも立派な堰堤があるのだが、まあもさん曰く、この上流を辿ったところに、なんとスリットダムがあるという情報を目にしたらしい・・・!とはいえ、どれくらい遡上すればいいのか詳しい情報がない時点で、さすがにここに入り込むのは寄り道が過ぎる・・・けど、いつか辿ってみたい・・・!
 
 路上には、いたるところに斜面から落ちてきた岩が転がっている。この先はもう、何が起きても復旧の手が入ることはないだろう・・・。
 
 現在時刻、9:39。路肩の櫓の上に置かれたタンクがあった。
 
 繋がれたホースを見た感じ、沢の水をここで溜めていたのだと思う。ここに来るまでに、いくつかの作業小屋の廃墟(というか残骸)があったが、そういう施設で使うために、ここで溜めた水を配水していたのだろうか。
 
 その先に、周囲の開けた平場があった。かつて貯木場にでも使われていたのだろうか。こんなところ、ちょっと整備してキャンプ場でも造れば人気出そうなのになー、勿体ない。
 
 現在時刻、9:44。歩き始めて1時間近くが経過した。それにしても舗装路歩き長ぇなあー・・・と思いながら歩いていると、荒沢橋に着いた。
 
 この荒沢橋を渡ると、道は180度折り返し、道は沢の左岸に沿っていくが、ここでようやく路面が未舗装へと切り替わる。
 
 おお、来たぞ・・・ここから見えている日向の路面の奥に、次の閉鎖されたゲートがあるのだが、以前来たときはここまでバイクで来ることが可能だった。
 
 と、その広場のようになった場所の左手に崩壊した小屋があるが、その中に1台の重機が置かれたままになっていた。
 
 ちなみにこの小屋、外壁に落書きされた文字によって「ブラックデビル小屋」なんて呼ばれているらしい・・・。
 
 小屋の中を覗くと、1枚の看板が立てかけてあったが、そこにはこう書かれていた。
 
交通止
林道雲取線これより先、落石危険のため三月十一日から当分の間、交通止と致します。
大滝村
 
 
 そして、その小屋の中に残る重機には昭和47年度の文字が書かれていた。上の看板に記載された日付が、必ずしもこの「昭和47年度」とイコールではないとは思うが、この場所がまだその看板に書かれた「大滝村」だった頃から、すでに交通止となっていたのは間違いないのだろう。
 
 さて、そのブラックデビル小屋を過ぎると、程なくゲートが現れる。
 
 起点から約8.3km。ここが、13年前に訪れた時にはすでに閉鎖されていたゲートだ。鮫澤橋のゲートが閉じられた今でも、このゲートは閉じられたままだった。
 それにしても、ここから5km近くも手前の鮫澤橋から歩くこときっかり1時間。車両の通行可能な区間がずいぶんと短くなってしまったなあ。
 
 

 
 ちなみにこちらが、その13年前の写真だ。あの日はここから沢に降りて、昼飯食って引き返したっけなあ(笑)。
 
 

 
 13年前の俺よ、ついにこの先を歩く時が来たぞ!車道としてもう復旧させることもないであろうこの道の姿を、この目で見に行こう!
 
 ゲートのすぐ先に、大洞川橋水位観測所があるが、その前に折り畳み自転車が置いてあった。この観測所に据え置きのものかと思ったら、帰り道でこれに乗った釣り人に追い越された。ここまでの道中でもひとりの釣り人とすれ違ったが、やはり山の奥地にくると必ずと言っていいほど釣り人に遭遇するな(笑)。
 
 そして、その水位観測所のすぐ先で、大洞川にかかる大洞橋を渡る。
 
 橋の絵うから大洞川の本流を見下ろす。先ほどまでに通過してきた沢は、全てこの大洞川に合流していく。
 
 そしてこの橋を渡れば、この雲取線が、いよいよ廃道としてのその真の姿を表す!
 
 わっはっは!橋を渡った途端にこれだよ(笑)!
 

 きっと、13年前に来た時も、大洞ゲート以降のこの区間はもうこんな状態だったんだろうなあ・・・。
 
 最初の崩落を越えても、間髪入れずに次の崩落が現れる。
 
 もちろん一見平穏な場所もあるが、この写真でもすぐ先に路上に堆積する土砂が見えているように、視界には常にどこかしらに崩落が存在しているような状態が続く。
 で、大洞ゲートを越えてから、こんな状況と、同じようなカーブをいくつも越えていく区間が少し続いたもんだから、この時点での俺はまあもさんにこんなことを言っていた。
 
 「この状態が続くようだと、意外とツマランかもしれないね・・・。」
 
 
 だぁ~いじょ~ぶ!この先にすンごいのが待ってるから!!
 
 おおっと、ここは斜面からの土砂に加え、路肩が崩れ落ちてしまい、路盤がすっかり消え失せてしまっている。それでも、その上には踏み痕があるので、歩きなら問題なく進むことはできる。
 
 見てよこれ。斜面の上に、オーバーハング状の巨大な岩が、路上に落ちるのを今か今かと待ち構えているようではないかッ・・・!
 
一見平坦に見えるこんな場所でも、路上には隙間なく礫が散らばり、これが歩くうえで意外とやっかいな障害となり、足に余計な負担がかかってくる。
 
 ふと、木々の途切れた場所から下を見ると、透明度の高い水を湛えた大洞川が、轟音を鳴り響かせながら流れている。
 
 そして、そこに至る斜面は崩落によってこの有様。落ちたら良くて骨折、悪くてあの世行きだな・・・。
 
 その先で、明るい日差しに照らされ、路上を緑に覆われた穏やかな場所があった。轍すらないフラットな路面がとても美しく、思わず見惚れてしまったが、よく見ると、路肩がなだらかに斜面と繋がっている。きっと、何十年も前に崩れ、長い年月を経てこんななだらかな曲面になったんだろう。
 
 そしてこちらは、堰堤とその水流に見惚れるまあもさん(笑)。
 
 ここでは、道の外に流出した土砂の上に、木が成長していた。この土砂ももうすっかり固まって安定してるんだろうな。
 
 ときおり路肩の木々が途切れると、その外に広がる山々の景色を見渡せる。林道歩きなので、登山のような急登は無いのだが、それでも少しずつ、確かに標高を上げてきているのを実感する。
 
 ここでは、道の真ん中に灌木が育っていた。こういうの、奥秩父林道でも見たっけなあ。いかにも廃道然とした光景に、思わず楽しくなってしまう。
 ・・・そう、いつのまにかしっかり楽しくなっていたのだよナノレカワは(笑)。
 
 おっと、ここはかなり大規模に崩れている感じに見える。
 
 ここはどこを越えればいいだろうかと見渡していると、壁際ギリギリのところが行けそうだ。
 
 その頭上にはまたしても、今にも落ちてきそうな岩肌が剥き出しになっている。さすがに大雨の日でもなければいきなり落ちてくることもないと思うけど、冷静に考えればすごいとこ歩いてるよねやっぱり・・・。
 
 土の締まった部分を選んで無事通過。斜面を下るまあもさんとの対比で、その後ろに横たわる岩石の大きさが分かるだろうか。こんなのが落ちてきたら人間なんてひとたまりもないよな・・・。
 
 その先で、珍しく穏やかな区間を通過。苔生した路面が美しい。
 
 かと思えば、またすぐにこんな場所が現れる。この雲取線では、こういう場所のほうが当たり前だからね(笑)。
 
 名もなき小さな橋の上から、その下を流れる清涼な沢を見る。ここ、綺麗だったなー。ツーリングだったら間違いなくこの沢沿いに腰かけて昼飯にしてるところだ。
 
 現在時刻、11時ちょうど。歩き始めて約2時間、大洞ゲートから約1時間が経過したが、ここで大規模な切通しが現れた。緑を溶かした光に包まれた姿が、実に美しい・・・。
 
 その路上は、散らばる礫の間を縫うように沢水が流れ、一瞬、沢を遡上しているような錯覚に囚われた。この切通しはまあもさんも甚く感動してたなあ。しばしこの切通の中からの光景を味わい、さらに先へと進んだ。
 いよいよ林道雲取線の最深部へと向かう!
 
②へ続く。