林道雲取線を歩く
2024/05/11 埼玉県秩父市・林道雲取線-②
 
①はこちら。
 
 美しい切通しを越えて、なおも崩落は続く。ここも土砂が道の端までみっちり埋め尽くしていたので、なるべく高巻きをして通過。
 
 その先で、山側から谷側にかけて、路上にワイヤーが渡してある場所があった。
 
 どうやら索道の名残のようだが、これはその索道を巻き上げたウインチだろうか。
 
 ただ、その路上のワイヤーは、谷側が路肩にめり込むように低い位置に貼られていた。これは、谷側に設置されていたであろう設備が崩落によってずり落ち、このような本来よりも低い位置になってしまったのだろうか。
 
 だって、これじゃあ車両が通れないじゃんね?ってことは、この状態になったのは、ここより手前の崩落が起きた後ってことなんだろうなやっぱり。どれだけ長い間この道が放置されてきたのかが窺えるような状態だな。まぁもちゃんもびっくりだよ。
 
 その索道跡のすぐ先で、今度は路盤がごっそり崩落している。
 
 ああ、ここかあ・・・以前、この雲取線の途中に、人ひとり通るのがやっとの場所があるという話は聞いたことがあったが・・・。谷側にも下りて迂回できるような場所もなく、しかも山側にはコンクリートブロックの擁壁がほぼ垂直に立ち並び、ぱっと見の圧迫感が半端ない。
 
 とはいえ、実際に足を踏み入れて見れば、この程度の路盤は残っているので、うっかりしないように極力慎重に進む。
 
 崩落を越えて振り返る。右手に見えるコンクリートの壁の位置が、本来の路盤がそこまであったことを教えている。
 もうね、ここまで歩いてよーっく分かった、この林道の復旧は到底無理だよ。下手すりゃ新しく林道を開削するより手間がかかるかもしれない気すらするよ・・・。それでも、かつては必要とされ、こんな山深い場所まで林道を延ばしてきたという事実と、その痕跡を今こうして辿っていることに、もはや興奮を禁じ得ない!
 
 そして、先へと進むほどに崩落は酷さを増す。ここなど、車道の痕跡はほぼ残っておらず、言われなければかつて林道が通っていたとは分からないほどではないかと思う。
 
 それでも、そんな土砂の上を踏み痕はしっかりと続いている・・・。
 
 そのように、土砂が締まった斜面はまだいいのだが、礫がごろごろと積みあがったようなこんな場所は、足元に細心の注意を払いながら進まざるを得ない。
 
 現在時刻、11:20。少し空の開けたカーブの路肩に、かつて電柱にでも使われていたような丸太が置かれたままの場所があったので、ここに腰かけて少し休憩することにした。一息ついて、ふと進行方向に目を遣ると・・・。
 
 ・・・ん?なんだあれ・・・?
 
 ・・・あ!切通し!?あれか!まあもさん、あれがそうでしょ!?
 実は、今日最初に、まあもさんからあることを聞いていた。俺は知らなかったのだが、どうやらこの雲取線の途中に巨大な切通しがあるらしく、仮に途中の崩落で終点まで到達できなくても、その切通しだけは見ておきたいとまあもさんが言っていた。ここから見るスケール感で、絶対あれがその切通しなのは間違いないだろう。それにしてもデケェなあ・・・!
 
 それではさっそく切通しへ向かおう!大洞ゲートを越えた直後のあの杞憂はもうどこへやら、だ。我ながら現金なもんだぜ(笑)。
 
 おっと、その前に。あの切通しの手前の崩落斜面の上に、古いスプライトの250ml缶が落ちていたので思わず観察してしまった。
 
 飲み口はプルトップ式で、飲料缶としては現在ほぼ絶滅状態だと思うが、それでもプルトップってそんなに古いものじゃないような気がしたけど、調べたら日本では1965年から採用されてたそうだ。このスプライト、一体いつからここにあったんだろう・・・。
 
 というわけで改めて。いよいよここからこの切通し区間へ進入するぞ。ちょうど切通の入り口に生えた木が、その先を覆い隠すように緑を茂らせてている様が、この切通しへのエントランスとしての演出を担っているようで、否が応にもこの先への期待が高まるが、この地点から先の様子を動画に撮ってみたので、まずはこちらを見て欲しい。
 
 この動画は、一度通過した後に撮影のため改めて歩いたものなので、声も発さず静かに歩いているが(笑)、最初にここに突入したときは、あまりの衝撃に、「うおおおおっ!スゲエーッ!スゲエーッ!」とワーワー騒ぎながら歩いていた。
 
 改めて静止画でも。高い岩壁に囲まれ、右手にカーブしていくその様は、切通しというよりもはや回廊と呼ぶのが相応しいほどの神々しさを感じるではないか!白い岩壁、路上を埋め尽くす瓦礫、その向こうに見える新緑と青空。それらが完璧なまでに組み合わさったこの光景、もう全てが美しい・・・。
 
 切通しの出口には、巨大な岩石がいくつも横たわり、路上を埋め尽くしていた。写真だとサイズ感が今一つ伝わりづらいかと思うけど、復路でもうちょい分かりやすい写真を載せるのでそれでこの大きさを実感して欲しい。
 
 終点側から振り返る。いやあ・・・本当に凄すぎる・・・。これだけの規模の切通しを開削するのに、一体どれだけの時間と労力がかかったのだろう。そして、ここへ来るためには、これまで見てきたような廃道をひたすら歩いてくるしかない。本来想定されていた車両での往来が途絶えてしまってから、一体どれだけの年月が経ったのだろう・・・。
 
 あまりの素晴らしさに、こちら側からも動画を撮ってみた。今となってはもう不可能なことではあるが、ここにBAJAを停めて写真を撮ってみたかった・・・。
 
 動画を撮りつつ切通しを見上げていると、ちょうどその岩の上を飛行機雲が伸びていくところだった。ぬおお!このロケーションにしてこのシチュエーション!素晴らしい!素晴らしすぎる!
 
 まあもさんに撮ってもらった。俺との比較で、少しでもこの切通しのスケールが伝わるだろうか。 
 ちなみにこの切通し、Googleマップには「大洞切通し」と記載があるが、現在は、ゲートを越えて崩落だらけの廃道を歩き続けた者だけが見ることのできる絶景だ。
 この場のあまりの素晴らしさに、だいぶ時間をかけて眺めたり写真を撮ったりしていたが、どのみちここは行き止まりの道でまた戻ってくるので、そろそろ先へ進むとしよう。
 
 切通のすぐ先にも、こんな崩落が待っているが、言っても普通に歩いて越えられるので、もうこの程度では何とも思わなくなってきた(笑)。だいぶ感覚は麻痺してきているが、とはいえ油断だけはしないように気を引き締めて行こう。
 
 そして、その崩落を越えたところで振り返って見た景色がまた実に良かった・・・!
 
 先ほども言ったが、ひたすら廃道を歩き続けた先の山奥に、こんなにも美しい切通がひっそりと聳えているというその事実に身震いするぜ。今日、ここまで来れて良かった・・・!
 
 そんな感じで思いがけず大感動してしまったが、道はまだ先へと続いている。
 ここでは、路上から生えている木が、少々不自然な感じでガードレールの外側に幹を伸ばしていた。なんでこんな状態になったんだろう?よく見ると、ガードレールも外側に傾いて見えるから、もともと木もガードレールも垂直に立っていたものが、何らかの圧力によって外側へ傾いたのかもしれない。
 
 ・・・木に食い込んでるし。
 
 これ、山側の岩壁で見かけたんだけど、ちょっと窪んだ岩の間に、コンクリートで床を作ったような構造物があった。初めて見るものだけど、谷止工の一種だろうか?
 
 相変わらず崩落は連続しているが、もはや道であることが判別できないような場所が増えてきた。奥地に進むにつれてこういう状態が多くなっているのは、何かしらの理由があるのだろうか・・・。
 
 ザレた崩落帯を越えていく。この写真が、我々がどんなところを歩いてるのかよく分かるのではないかと思う。
 
 まあもさんも慎重に歩を進めております。
 
 うわあ、これは酷い・・・。ガードレールの様子を見るに、この手前の擁壁はとうの昔に谷底へ落下したのだろう。今となってはもうどんな状況を見ても驚きはしないが、かつてはこの雲取線も、崩落が起きるたびに復旧を行っていたなんていう時期もあったのだろうか。
 
 ここは、元の路盤の高さがどこだったのか、もうよく分からないのだが、下のほうにヒューム管が見えている。この道中で、結局ここが一番通過に難儀した場所だった。
 
 恐らく、崩れてから相当長い時間が経っているのか、土砂の斜面を縦に裂くように、谷底へ向かって洗堀が刻まれ、その中には落ち葉が深く積もっていた。きっと、道の復旧を諦めた頃の物なのかもしれない。ここまでの崩落個所は、なんだかんだ言っても足だけで通過できていたのだが、ここで今日初めて両手も使って通過した。
 
 見てのとおりの斜面なので、どこを通っていいのかも分からず、俺はできるだけ高巻きをして通過しようと思ったのだが、ふと下を見ると、まあもさんはもともと立っていた位置からほぼそのままトラバースしていた。まあ、どこを通っていいのか分からないってことは、どこを通っても変わらないってことだよね(笑)。
 
 そんな崩落を越えてくると、久々に穏やかな路面が復活した。
 ・・・いや、穏やかってのは、あくまでも水平な路盤が残っているってだけで、路上には岩石がゴロゴロしてるんだけどね・・・。
 
 ここでも、そこそこの規模の切通しを通過した。岩壁の袂に咲く花も実に綺麗で、この景色そのものは、もし普通の林道ツーリングの途中で見かけたりしていれば、きっと相応に感動して写真を撮りまくっていたと思うが、なにぶんさっきの巨大切通しを見た後だったので、もはやごくありきたりな林道の景色を見た程度のテンションで通過してしまった。贅沢なハナシだよホント・・・。
 
 その切通を越えて程なく、目の前にこれまでにないくらいに穏やかな路面が続き、広場のようになっている場所が見えた。この景色を見たまあもさんが、「あれ、この広場って終点じゃない!?」と言っていたが、俺はこの景色を前に思わず息を飲んで、まあもさんのその言葉にすぐに反応することができなかった。そうだよ、確かにここは・・・。
 
 現在時刻、12:02。鮫澤ゲートから歩き始めて3時間と少々、ついに到達した!ここが林道雲取線の終点だ!
 
 正直なところ、今日はここまで来れるかどうかは未知数で、途中の崩落の具合によっては途中で引き返すことも視野に入れていたし、終点までの正確な距離も分からなかったので、もし終点まで来れたとしても、どれだけ時間が掛かるかは大まかな予想を立てるしかなかった。今こうして、雲取線の終点に己の足で立っていることが筆舌に尽くし難い感動だ!
 道の末端は、その奥に続く緩やかな斜面と一体化するように曖昧に終わっていた。ここまでの道のりで見てきた幾多の崩落が嘘のように穏やかな景色だ・・・。
 
 終点に向かって左側の斜面には、杉の植林帯が広がっていた。本当なら、これらの木々もいずれ伐採され利用されるはずだったろうに、もう何十年と放置され、今はただ足元の斜面に木漏れ日を落とすだけだ。
 
 地面に横たわる大岩の脇に、サビだらけのドラム缶が落ちていた。この林道がまだ現役だった頃からここにあるのだろう。
 
 ふと足元に、一升瓶の中で芽を出し育っている植物を見つけ、思わずしばらくのあいだ目を奪われてしまった。かつての人の営みの残留物に囚われたまま、この先このまま育ち続けるのかな・・・。
 
 杉林の中から林道の終点方向を見る。杉の植林帯と、その向こうに見える鮮やかな広葉樹林帯の対比がとても印象的だった。
 
 まあもさんと2人で、存分に雲取線終点の景色を堪能した。さあ、そろそろ引き返すとしよう。
 
 出発前に、まあもさんに写真を撮ってもらった。きっとここには、一生のうちもう来ることはないんだろうなあ。と、そんなことを言いながらお互いに記念写真を取り合った。
 
 そして、行き止まり林道なので当然、ここまで歩いてきた道を再び辿って戻っていく。
 
 崩落斜面から見えた川面を撮っているところをまあもさんに撮られていた。川っぺりまでは遮るものが何もないので、滑落したらここから川まで一直線にダイブだよ😊。
 
 ふと足元に、シカのものと思われる顎の一部が落ちていた。頭骨がまるまる一個残っていれば間違いなく持って帰ったところだけど、あいにくこれと、他には対となる反対側の欠片があるだけだった。静かに眠れよ・・・。
 
 この写真、崩れかけた擁壁が映っているせいで、水平がよく分からんことになってるな。
 
 それにしても素晴らしいまでの絶景林道だ(廃道だけど・・・)。今後もこのままいたるところで崩落が起きていくと、いずれはここに道があった痕跡すらも埋もれてしまうときが来るのだろうか。
 
 この山深い景色も最高だなあ。本当に、バイクで走ってみたかった・・・。
 
 路上にはこのような巨大な岩がそこかしこに積み上がり、車両の通行を拒む。現在では徒歩でのみ味わえる林道風景だ。
 
 大洞切通しまで戻ってきた。ここからの眺めも、惚れ惚れするほどの絶景だよ・・・。
 
 切通の外側、谷底に続く岩肌がまた実に美しい・・・堪らん・・・ここに住みたい・・・。
 
 もう、何枚撮ってんだよってくらいシャッターを切ったが、しばしお付き合いくだされ(笑)。
 
 そして、今日はここでランチタイムだ!行きにも見た、路上を塞ぐ大岩の上に腰かけて、さっそく店開きだぜ!
 
 麓で買ってきたこれ、見ろよ!カリーパンパンパンだぜ!
 
 まあもさんとの対比で、腰かけている岩がどれだけ大きいか分かるだろうか。こんなものが、この岩壁の上から剥がれ落ちてくるところを想像するだけで恐ろしいな・・・。
 
 そして、ここから見える道の外の景色がまた素晴らしい。ここが廃道なのが本当に勿体ない・・・。
 
 本当に、今日ここに来ることが出来て良かった。この切通しのことを知らずにやって来た俺には完全なボーナスステージだったわけだけれど、快晴の空の下、こんなにダイナミックな景色の中でのんびりしていることがまるで夢のようだ・・・。
 
 飯を食っているところをまあもさんに撮ってもらった。まあもさんは暑いときにラーメンはキツいと言っていたけど、俺は通年ラーメンマンなのだ!
 
 先ほど引き返してきた終点には、もう来ることはないかな、なんて思ったけど、この切通しは機会があればまた訪れたいなあ。そう思えるほどに素晴らしい場所だった。もし紅葉の季節に来てみたら、いったいどんな景色が見られるだろうか。考えるだけでワクワクするな。
 
 昼飯を終えて、再び歩き出す。
 
 起点方面に戻るときのほうが、崩落の向こうに広がる空が見える場所が多く感じる、崩落斜面を越えるまあもさん、なかなか画になってるぜ。
 
 来た時と同じように、大崩落をいくつも乗り越えていくが、一度通ってきた道なので不安はない。
 
 希に現れる(笑)穏やかな路面。苔生したその路上に、昼過ぎの太陽から落ちる木漏れ日がとても美しい。
 
 無残なまでに崩壊した林道だったが、そのぶん普段のツーリングや登山では見ることのない劇的な場面をいくつも見ることが出来た。
 
 現在時刻、14:38。大洞ゲートまで戻ってきた。正直、こんなに早い時間に終点まで行って帰ってくることができるとは思っていなかった。
 
 そこから一気に舗装区間を歩き、現在時刻15:55。ついに鮫澤ゲートに戻ってきた。BAJA君、ただいまー!
 ここを出発してからきっかり7時間、怪我ひとつなく無事に帰ってくることができた。壮絶な崩落地を越えつつの険しい道のりだったけど、幾多の素晴らしい廃林道の光景をこの目で見ることが出来て、本当に素晴らしい一日だった!
 
 秩父湖休憩所まで戻り少し休憩をしてから、まあもさんとはここで現地解散となった。まあもさん、今日一日廃林道歩きにお付き合いいただきありがとう!また面白そうな場所があったら行きましょう!
 
 さーてBAJA君、帰ぇっかー!
 
 
---------- おまけ ----------
 
 帰り道、国道140号の大達原隧道の少し先、大血川林道への分岐のところで、古い街路灯を見つけた。これは写真に収めねば!と思ってシャッターを切りまくっていると、後からやって来たまあもさんにその様子を目撃されてしまった(笑)。お疲れッシター!