未だ見ぬ森林軌道の終点を目指して
2015/06/07 埼玉県秩父市・赤沢軌道-@
 
赤沢軌道 (距離2,378m)
 
昭和24年5月 赤沢流域に斫伐地域移行。
          軌道新設工事に着手 1,187m施工
 
昭和26年    1,200m新設延長 完成
 
昭和44年8月 全線撤収
 
 (『科学の森たんけん4 秩父演習林の歴史』 東京大学秩父演習林(平成17年発行)より引用)
 
 
 赤沢軌道、である。
 
 東京大学農学部の演習林からの資材搬出のために、まずは牛馬林道として大正12年より開設が始められ、後に軌道が敷設された入川森林軌道。赤沢軌道は、その上部軌道として、豆焼沢奥と赤沢谷奥の原生林開発の為に造られたという(参考:『全国森林鉄道』JTBパブリッシング刊)
 赤沢軌道の存在そのものは以前から知ってはいたものの、今まで一度も足を踏み入れたことは無かった。その赤沢軌道に、一昨年の12月にタマチャリンさんが訪れてレポートを上げられたのだが、途中の道の険しさ(それは道が落ち葉に覆い尽くされると言う、時期的な要因も大きかったことだろう)のあまり、結果的にそのときは終点を見ることなく終わっていた。
 先月、BBSでタマチャリンさんとふと赤沢軌道の話題になり、そこからとんとん拍子に話しが進み、今回の赤沢軌道の合同探索と相成った。
 
 突然すぎるが、ここは入川林道の起点から約1.3kmにあるゲート地点だ。当日はタマチャリンさんと、雷電廿六木橋の廿六木望郷広場で待ち合わせをし、ここまで一緒に向かってきたのだが、相当浮足立っていたのか、集合場所からここまで一枚の写真も撮ることなく来てしまった。まあ、ここまでは特筆すべきことも無いので構わないっちゃあ構わないのだが。
 
 それでは早速赤沢軌道を目指して進むとしよう。BAJA君、ちょっとここで待っててね。現在時刻9:06AM、スタート!
 
 ゲートを越えて歩きだすと、周囲は朝日を吸い込んだ鮮やかな緑に包まれている。今日の行程は、赤沢軌道の終点まで辿り着くことが出来れば、往復で15km程の距離になるようだ。
 
 この時期の入川に来るのは本当に久しぶりだが、この緑の美しさは何も変わることは無い。
 
 9:23AM、林道と入川軌道跡との分岐地点に到着。
 
 ここで入川林道を離れ、軌道跡へと進んで行く。ナノレカワにとっても一年半振りとなる入川軌道だ。
 
 程なく、路面に残るレールが現れる。実はここ以前の林道沿いでも、現存する敷設されたままのレールを見ることが出来る場所はあるのだが、やはりここまで来ると俄然気分が高揚してくる。
 
 鮮やかな木洩れ日の中を延びるレール。
 
 ときおり見える、カーブの向こうへとレールが延びるこの景色が好きだ。
 
 軌道敷の上に迫り出した特徴的な片洞門。実にダイナミックだ。
 
 荒川の流れと路盤が一緒に見えるこの眺めもかなり良い。
 
 さっきも似たような風景を撮ったけど(笑)。
 
 岩の隙間に、巨大な流木が幾重にも折り重なる。実に荒々しい景色だ。
 
 今回、入川軌道敷はほぼスルーしても良いくらいのつもりで訪れたのに、やはりどうしたって目に留まる景色はシャッターを押してしまう。
 そんな道を歩き続け・・・。
 
 10:06AM、林道との分岐地点から43分経過。
 
 赤沢谷出合に到着した。
 
 ここで入沢と赤沢が合流し、荒川(滝川との合流地点までは「入川」とも呼ばれる)となって流れて行く。
 
 赤沢上流を見上げると、沢には沿って堆積した大きな岩の隙間を縫うように清涼な水が流れ落ちて行く。これまでの穏やかな軌道敷が嘘のようなワイルドな眺めだ。
 この赤沢という地名に付いた「赤」という文字、これは危険な土地に対する警告としての意味合いがあるということを聞いた覚えがある。恐らくここも、大雨などの時などには岩石までも押し流す程の、恐ろしいまでの水流となって谷を駈け降りるのだろう。
 赤沢谷出合でしばしの休憩をし、いよいよこの荒々しい沢の流れる谷に沿って延びる、ナノレカワにとって未だ見ぬ赤沢軌道を目指す!
 
 10:15AM、前進を再開。赤沢の左岸を延びる登山道を上っていくと、程なく視線の先に見えてくるものがある。
 
 赤沢吊橋だ。主塔がかなりしっかりした造りに見えるのでかなり安心感があるように思えるが、言ってもそこは吊り橋、やっぱりいい感じに揺れてくれるんだぜ・・・。
 
 嘗て入川軌道の終点と、赤沢軌道の起点とは索道で繋がれていたというが、その高低差はおよそ80mとのこと。その高低差を、現在ではこの登山道で一気に登りつめて行く。今渡ったばかりの吊り橋があっと言う間に遠のいていく。
 
 急峻な斜面に、九十九折に刻まれた登山道が駆け上がっている。
 
 この登山道、位置的には入川軌道終点のほぼ真上に位置する赤沢軌道の起点を目指して延びている為に、直登といってもいいくらいの急激な登りだ。
 
 何で突然木の根っこを写しているのかって?何故ならここも立派にルートの一部で、この根を足掛かりに登っていくのだ。こ、ここはかなりキツい!
 
 歩道の脇には急斜面が控えている。うっかり足を踏み外そうものなら、あっという間にふりだしまで戻されてしまうことになる。
 
 そんな急峻な登山道を登り続けてくると、突然目の前に、大量のうち捨てられた瓶の破片が現れた。そう、遂にやって来たぞ・・・。
 
 10:24AM、赤沢軌道跡に到着!急に穏やかな勾配を取り戻した路盤は、いきなり敷かれたままの枕木が並んだ状態で出迎えてくれた。
 今見た瓶の残骸は、当時の軌道関係者が捨てて行ったものだろう。これらはこの後、更に奥でも見ることになる。
 
 路盤にはレールこそ残されていないものの、その枕木には、嘗てレールを固定していた犬釘が打ち付けられたままとなっている。おおお、いきなりこれはテンション上がる!
 
 そして周囲を見回すと、ときおり置き去りにされたままのレールも見ることが出来る。
  
 斜面の上には、丸太とワイヤーで組まれた構造物も残っている。位置的に考えてもこれは、恐らく入川軌道とこの上部軌道を繋ぐ索道に関わるものだったのではないだろうか。
 
 そんな、初っ端から山盛りの軌道時代の残留物で始まったこの赤沢軌道。キツい登りの登山道を抜けてのこの展開に、いきなりテンションMAXだぜ!
 
 路肩には石垣が残る場所もたびたび現れる。こんな高所にこれだけのものを造り上げるのは、一体どれほどの苦労があったことだろう。
 
 斜面から崩れ落ちてきた土砂や落ち葉によって、路面がやや狭まっているような箇所もあるが、この区間は現役の登山道の一部として組み込まれていることもあって、特に危険を感じるようなところは無い。
 
 ただ、道の外を見下ろすと、赤沢が遥か下方を流れている様子が見える。こんなところでうっかり足を踏み外しでもしたら、今登ってきた80mを一気に滑り落ちることになる。下手すりゃ命を落としかねないぞこれは・・・。
 
 とはいえ、うっかりさえしなければ特に危険は無い。必要以上にハイテンションに踊らされることの無いよう落ち着いて進んで行こう。
 それはそうと、この斜面から迫り出す巨岩、なんだか嫌な感じにひび割れているなあ。こんなものが崩れてきたら、路盤もろとも谷底に落ちて行きそうだ。
 
 軌道跡に入って7分、10:31AM。道が二手に延びる分岐が現れた。左手に坂を登っていく登山道と分れ、右手に平坦に延びる道が赤沢軌道跡だ。
 分岐地点に立つ道標は、左手の道を「十文字峠」と指し記し、そちらが正式な登山道であることを伝えているが、我々が進むべき右手の道は・・・。
 
「山 道」・・・。

Aへ続く。