冬の景色を見に行こう
2019/01/26 東京都奥多摩町・林道川乗線〜林道日向沢線
 
 この日を遡ること1週間。ツイッター上で、ある林道風景の写真を見た。その写真を見て、早くその場に行きたい気持ちばかりが逸り、この週末まで長い1週間を過ごした(笑)。
 その写真の現場は、奥多摩にある林道日向沢線。そこに今まさに、この季節にしか見られないものがあるのだという。幸いにしてここ最近は好天続きでまとまった雨や雪もふってはおらず、奥多摩とはいえ路面の凍結の心配も無さそうだ。それでは待ちに待った週末、早速行ってみよう。
 
 国道411号から日原街道へと入り、まずやって来たのは林道川乗線。今日本来の目的の日向沢線は、この川乗線を6km程進んだ先で分岐するが、この川乗線自体もその分岐地点までほぼ舗装路ながら、なかなかに良い景色を見ることが出来て好きな林道だ。
 
 ちなみにこの川乗線の起点には、見ての通り柵があるが、これは通行を規制するものでは無く、そのことは東京都森林事務所のサイトにも明記されている。通行の際は柵を開けて入ればいいのだが、じゃあ常時この柵を閉じている理由ってなんなんだろう?
 
 それはともかく、前回訪れてから4年ちょっと振りとなる川乗線。この時期ならではの、木々が幹を露わにした、モノトーンに染まる冬枯れた景色で出迎えてくれた。
 
 幸いにして、この時間は空もすっきりと晴れ渡っている。今日は夜にかけて天気が崩れる予報だった気がするが、今日の目的を果たすにはそれほど時間は掛からない。
 
 山はどの季節に訪れても、その季節ごとにそれぞれ違った良さがある。だからこんなに寒くても林道に来たくなっちゃうんだよな。
 
 そんな冬の山の景色を楽しみながらしばらく舗装路を上ってくると、眼下に百尋ノ滝を見下ろすことの出来る地点に辿り着く。
 
 木々がすっかり葉を落としきり、視界が開けた谷底には、白く凍りついた百尋ノ滝の姿が見えている。
 ただ・・・林道おたく的には、この場所から見るべき景色が他にあることはもうご存知ですよね?
 
 そう!進む先の急峻な崖の真っ只中に通された、この道の景色だ!
 
 ほぼ垂直に近い崖の窪みにコンクリートで擁壁を造り、半ば無理やり気味に通した道が、この景色の異様さを際立たせている。やっぱり何度見てもいいわあ、ここ。
 
 そのコンクリート擁壁の地点まで上がってきた。ここから遥か遠くに連なる山々を見渡す景色も好きなのだ。ただ、実はこの少し手前で、自転車乗りのグループを追い抜いて来ていた。こっちはオートバイなのでだいぶ引き離したとばかり思い込んでいたのだが、BAJAから降りて写真を撮ろうとしていると、ここから見える一番遠くのカーブの地点に、そのグループがもう迫って来ていた。は、早っ!
 俺は人のいるところだと落ち着いて写真も撮れない性分なので、ここでは写真もそこそこに先へと進むことにした。どうせここは往復するしかない道だし、また戻りのときにでも撮ればいいか。
 
 百尋ノ滝を過ぎると、路肩にうっすらと雪の残るところが現れだした。この程度なら何も問題は無いが、ここはまだ舗装区間だし慎重に進んで行こう。
 
 起点から6km少々で、ようやく路面が未舗装に変わった。そして、ここから見えているあのカーブを超えると・・・。
 
 林道日向沢線との分岐に到着だ!左手に折れていくのが川乗線本線、そして一見本線に見える、ここから直進する道が今日の目的の日向沢線だ。
 
 さあ、見たかった景色まではあと少しだ!
 
 日向沢線の起点から少しの間は路面がやや荒れた場所もあったが、そこを過ぎてしまえばあとは穏やかな路面が続く。日影となる区間には雪が残る場所も多くなって来たが、やっぱり未舗装路上の雪だと安心感が段違いだ。もっと積もってくれててもいいんだよ(笑)。
 
 1日中日陰となるであろう場所では、斜面から湧き出た水が氷柱となっている場所もあった。
 
 氷柱の上部は膨らんだように丸みを帯びていて、染み出した水が少しずつゆっくりと時間を掛けて凍りついたであろうことが伝わってくる。こういった物を見ることが出来るのも、冬の林道の楽しみのひとつだ。
 
 路上に薄っすらと雪が残るこの景色も、この季節ならではって感じがして嬉しくなる。
 
 そんな道を進んでいると、ふと遠くに富士山の姿が見えた。
 
 真っ白に雪化粧をして、微かに青い影を纏った富士山が晴れた空の下に聳えている。素晴らしく美しいな・・・。
 
 川乗線からの分岐から2kmちょっとで、踊平トンネルに到着。
 
 尾根を潜る延長僅か69mのこの踊平トンネルが、今日の目的地だ。今日は入り口の手前にバリケードが置いてあるけど、どうせ出口の先で強制通行止めだし、トンネルの中だけ入らせてくださいね・・・。
 
 おおお!いた!
 
 トンネル内壁の亀裂から染み出た水が凍りついた氷柱!今日はこれが見たくてやって来たのだ!
 
 BAJAを停めて、しばらく氷柱を眺めてみる。ここまで成長するのにどれくらい時間が掛かったのだろう。
 俺は、冬の踊平トンネルがこのような状態になるということを今まで知らなかったのだが、検索を掛けてみるといくつかのブログなどでこの氷柱のことを載せている記事があり、そこそこ有名なものだったようだ。
 
 先程追い越した自転車のグループも、ダート区間までは上ってこなかったようで、他に誰もいないのをいいことにBAJAをいろんな角度で停めて写真を撮ったりしながらしばらくこのトンネル内での時間を過ごした。
 
 さて、折角なので久しぶりにこのトンネルを抜けた先の景色も見てみよう。
 
 ここから先の区間は、かつて埼玉県側にある林道日向沢線との接続を目指して開削を進められていたが、現在ではその計画も中止となり、道は荒れるがままになっている。ここから先の様子は、以前大崩落の地点まで辿ったときのものがあるのでそちらを見て欲しい。もう7年近くも前のものだが、復旧の手が入っていない以上、恐らくそれほど様子は変わっていないと思う(より酷くなっている可能性はあるが・・・)。
 
 2012/05/13 東京都奥多摩町・林道川乗線〜林道日向沢線 -A
 
 トンネル内に戻り、再び氷柱を眺める。表面を触ってみると非常に滑らかで、寒さゆえにあまり溶け出すことも無いのか、ドライな感触だったのが意外だった。
 
 それでも氷柱の足元は、少しずつ溶け出しだ水分が凍ったように、山状に盛り上がった形状になっていた。こんなところからも、少しずつ時間を掛けて形作られていった様子が伝わってくる。
 
 毎年冬になると、福島の二ツ小屋隧道の内部が一面氷柱だらけになる、実に美しい様子がウェブ上から伝わってくる。さすがにその規模には及ばないが(笑)、こんなに近場でもこんなちょっとしたものが見られるなんて嬉しくなる。
 
 ああ、楽しかった。途中の舗装区間での凍結も無く、無事にここまで上がってくることが出来て良かった。ひとしきり氷柱の姿も堪能したし、そろそろ引き返すとしよう。
 
 トンネルを出ると、先程までそこそこ良い天気だった空を、厚い雲が覆い始めていた。まだ降り始めたりはしないと思うが、少し早足で戻るとしようか。
 
 とはいえ、向く方角によってはまだ青空も覗いている。この堀割りも、この日向沢線の中で印象に残る地点のひとつだ。
 
 日陰のカーブに差し掛かったところで、往きには気づかなかった、斜面の流れ込みが凍り付いているのが見えた。
 
 思わずBAJAを停めて近づいてみると、その流れは全体が凍りつき、まさに時が止まってしまったかのようだ。
 
 でも、この氷を見て(あ、もしかして・・・)と思って、氷の奥をよく見てみると・・・。
 
 やっぱり!凍りついた表面のその奥に流れる水の動きが見えている。これを見ると山の脈動のようで、まるでこの山自体が生命を持っているような感じがしてすごく好きなんだ。久しぶりに良いものが見られた。
 
 さて、そろそろ腹も減ってきたし、どこかで飯にしよう。
 
 さあ、今日のメニュウはこちらでございます!これ、ちょっと前に「歯磨き粉の味がする」っていう評判を目にしていて、気になって買ってみたのだが、とくにそんな印象を受けることも無く(笑)普通に美味しかったです。
 
 さあ、あとは起点に向けて引き返そう。
 
 沢に沿って延びる、この冬枯れた林道風景の美しさよ。
 
 百尋ノ滝直上の区間まで戻って来た。生憎空はだいぶ曇ってしまったが、折角なのでここのロケーションを堪能していこう。
 
 ここ、ちょっと谷側に身を迫り出すと、この道が延びている場所が谷底まで続く急峻な崖の真っ只中ってことが良く分かると思う。ここが凍結なんてしていなくて本当に良かった(笑)。
 
 ここから谷底を覗き込むと、葉が全て落ち切っていることもあって、百尋ノ滝へ続く登山道が良く見えている。
 
 そしてそのまま滝壺へ視線を移すと、あ、人がいる・・・。すごいな、こんな寒いのによく歩いてくるな。って、向こうは向こうでこっちを見たら同じようなこと言いそうだけど(笑)。
 
 帰りも川乗線沿いの景色を楽しみながら、起点まで戻って来た。空もだいぶ薄暗くなり、ここへ戻った時点でとうとう雪がちらついてきた(笑)。まあ、積もる程のものでは無さそうだが、早いとこ帰るとしようか。
 ただ、せっかくここまで来たらついでに寄って行きたい所があるので、このまま日原街道をもう少しだけ奥へと進んで行こう。
 
 やって来たぞ、廃トロッコのレールだ。
 
 ここも前回川乗線に来たとき以来となるが、久しぶりに来てみると、以前レールに腰掛けるように延びていた潅木が、崖に向かって折れて倒れてしまっていた。
 
 

 
 これは以前ここに訪れたときに撮ったものだ。崖の際ぎりぎりに敷かれたレールの上から崖に向かって延びる木を眺めるここからの景色がとても好きだった。残念ではあるが、これだけ険しい環境下では止むを得ないことであるかも知れないし、これもひとつの自然の流れではあるよなあ。
 
 そんな訳で、少々寂しい終わり方になってしまったが、今日のツーリングはここまで。この一週間後、関東地方の平野部でも降雪があり、山間部ではかなりの積雪があったようだ。標高の高いところではこのまま春まで根雪となってしまうかも知れないし、そうなる前に日向沢線まで言っておくことが出来て良かった。さあ、春までの間、次はどこへ行こうかな?