野湯に行こう!
2018/09/23 群馬県吾妻郡草津町・香草温泉-A
 
@はこちら。
 
 現在時刻、9:42。登山道へと入っておよそ1時間10分を経て毒水沢へと到達した。ここから先は登山道から外れ、この毒水沢に沿って谷を登って行く。
 
 区切りも良いので、ここで一旦10分程の休憩を取った。他に人も全く来ないし、この板張りの橋の上は寛ぐのに丁度良かった。
 
 ここで凍らせたペットボトルを開けたところ、膨張した圧力で中身が吹きこぼれてしまったので、この沢の水で濯いでから飲んだのだが、少し口を付けただけで猛烈な酸っぱさが口の中に広がった。この毒水沢、なんでも日本一の強酸性と言われているらしく、おかげでこれだけ澄んだ水にも関わらず、この日この毒水沢沿いで魚影などを一切見ることが無かった。そして、上流で湧き出す温泉の所為か、水に触れてみても思ったよりも冷たさは無かった。
 (タマチャリンさんが毒水沢及びこの界隈の河川について解説してくれているぞ!)
 
 沢から少し外れた岩場には、橋から外れたところにロープが張られている。確かにこの先の道程を考えたら、ある程度の牽制は必要だろうな・・・。
 
 それではそろそろ上流へ向けて出発しよう。周囲の木々にはちらほらと紅葉も目立ち始めている。あと数週間もしたら、とてつもなく美しい景色へと変わりそうだ。
 
 序盤は勾配もほぼ無く、歩くことに特に苦労も無い。
 沢の正面には山の稜線が見えている。
 
 あれは白根山の稜線だ。これから白根の山頂方面へ向けて登って行くのだ。
 
 人の歩ける部分を探しながら、沢に転がる岩伝いに右岸、左岸へと行き来しながら先へと進んで行く。
 
 振り返ってまあもさん、タマチャリンさんを撮影。
 
 こんな感じで、ちょうど良い足場になる岩を見つけてはそこに足を掛けて沢を渡って行く。この日は普通のトレッキングシューズだったにも関わらず、最後まで足を浸水させることは無かった。最悪足元がずぶ濡れになるくらいの覚悟はしてきたのだが、それはもしかしたら先人たちが良い按配で岩を転がしておいてくれたということなのかもしれない。
 
 ただ、沢靴があって初めから沢の中に入るつもりがあれば、もっと楽は出来たと思う(笑)。
 
 この辺りの区間は沢の水も綺麗で、歩ける部分を探しながら岩伝いに渡渉しながら進んでいくのがただただ楽しかった。
 
 時には生い茂る熊笹を、腰を屈めて潜っていく。
 
 現在時刻、9:59。これまでの岩が転がる平坦な区間から、高低差のある岩場の中を沢が流れ落ちるダイナミックな景色へと変わり始めた。
 
 うおお!これはめちゃめちゃいい雰囲気じゃないか!小振りな滝を何度も越えて、この辺りから少しずつ高度を上げていく。
 
 見てくれ!この抜群に美しい毒水沢の景色を!
 
 ただ、先程も書いたとおりこの水は強酸性のため、これだけ透明度の高さにも関わらずここに生物の姿は皆無だ。なんたって、魚はおろか羽虫の類もいなかったからな。おかげで実に歩きやすい行程ではあった。
 
 先へと進むに連れて、徐々に岩場の高低差も大きくなりだした。この辺りはまだ怖さを感じることは無いが、足を滑らせたりしないように足場を確かめながら慎重に登って行く。
 
 ここで、この日初めて岩場に付けられたトラロープが現れた。ここではこれに頼ることなく登ることが出来たが、これからこの先で、何度もこのトラロープにお世話になることとなる・・・。
 
 幅の開いた岩場などは、ジャンプで飛び越えていくが、いまのところ特に不安や怖さを感じるような箇所は現れていない。
 そういえば、上の写真でもそれっぽいものが写っているが、道中、岩場にところどころ人工的に開けられた小さな孔や、そこに差されていたであろう錆びた鉄の杭などが時折見受けられた。嘗てはここに渡渉の手助けとなるものが設置されていたのだろうか・・・。
 
 快調に進むまあも隊長とタマチャリンさん。
 
 時には木々の生い茂る岩場を登り、滝を迂回していく。
 
 上の写真でもその変化が分かるかと思うが、次第に岩の表面の色が黄色味を帯びてきた。これは硫黄によるものだ。これにより、次第に岩の表面が滑りやすくなってきた。沢の流れで濡れた箇所などは特に要注意だ。
 
 そうして少しずつ危険度が上がって行くにつれ、それに反比例するように周囲の景色は美しさを増していく。
 
 そして、ここから見える先に、この毒水沢の上流が見えている。ここからの距離にしてはだいぶ高いところを流れているように見えるが、その理由はやがてこの先で判明することになる・・・。
 
 それにしても、「毒水沢」という呼び名からは想像も及ばないほどの美しい景色ではないか!
 
 紅葉交じりの美しい沢沿いの眺めの連続に、かなりテンションも上がってきたぞ!
 
 どうしても足場の見つからないところを渡るときは、足を沢の中に置いて渡ったりもするのだが、まあもさんは持参したステッキを使って上手く渡って行く。
 
 時にはこんな藪っぽいところにも突入するが、正直今日実際にここを歩くまでは、終始藪漕ぎのような道が続くんじゃないかと想像していて、これだけ美しい沢沿いを歩けることは良い意味で予想外だった。
 
 何故か地面と平行に伸びている潅木の間を潜るまあもさん。ここはさすがにステッキが邪魔そうだった(笑)。
 
 このルート、楽しすぎるぞ!こんな道を進んだ先に秘湯が待っているなんて、もう最高のシチュエーションじゃないか!
 
 ・・・なんて浮かれた気分とはそろそろオサラバの時間が迫って参りました・・・。
 藪の生い茂る岩場を登り詰めると、前方の視界に、意味不明な垂直の岸壁が飛び込んできた。あれは一体何だ??
 
た、滝だ!!
 
 これが、タマチャリンさんが「毒水沢のラスボス」と読んだ大滝だ!しかもこの滝、タマチャリンさんと比較しても相当な高さであることが分かってもらえると思う!つーかこの滝、どうやって越えていくんだ?
 そう思って滝の周囲を見回してみると・・・。
 
こ、ここ!?ウ、ウソだろ!?
 
 滝に向かって右手の垂直な崖に、1本のトラロープが垂れている・・・。目の前の現実を理解した瞬間、先程までの高揚感は一気に消え失せた。こんな崖をあんなロープ1本で登って行くのかよ。ってかあのロープ、本当に信用できんのかよ・・・。
 
 だが、そんな崖をタマチャリンさんは全く臆することなく軽々と登って行った。どうやらタマチャリンさん、余りの楽しさに相当ハイになっていたらしい!
 
 そんなタマチャリンさんを見て、俺も意を決してロープに手を掛けた。正直、タマチャリンさんのあの姿を見なかったら登ることを相当躊躇したと思うわ・・・。
 
 そんな崖を何とか登り切って見下ろした写真がこちら。ふあぁ、登ってきちゃったよ・・・。
 ってかね、いま掴んでたロープ、どこに繋がってたと思う?写真の右側に細い木が写ってるでしょ?これ、これの根元に結ばれてたんだよ・・・。こんな直径5cmにも満たなそうな木が、よく支えてくれたもんだと思うが、こんな岩場でも意外としっかり根は張っているんだな。自然は偉大だ・・・。
 
 その崖を登ってすぐ、僅かな区間だが笹薮に覆われた、土が剥き出しの急登ルートに入る。視界は覆われているが、このすぐ左手はさっき見たあの垂直な崖なので、足元にはかなり神経を使うぜ・・・。
 
 その藪区間を越えて、遂に滝の上までやって来た。ここから下流方向に目を遣ると・・・。
 
たっ、高えぇー・・・。
 
 先程、遠くに見えた上流が距離の割りに高い場所に見えたのは、この滝があったからだった。
 なんか、えいやっ、と勢いで登ってきちゃったのはいいけどけど、か、帰れんのかなコレ?ちょっと心臓が痛くなってきたよ・・・。
 
 で、あの滝を見たときにタマチャリンさんが、ここを上がれば温泉がある、と言っていたので、すぐに目的地に到着!と思い込んでしまったのだが、まだここで終わりではなく、この先には見ただけで更に過酷と分かる道程が続いていた。こんな滑滝のルート、どうやって登って行くんじゃ!
 
 振り返ればこんな眺め。なんか凄いところに来ちゃったなあ。
 
 ラスボスの滝を越えてから、トラロープを伝う場所が格段に多くなった。ここも、沢の脇の岩場を、ロープを頼りに登って行く。
 
 そんなロープ便りの岩場をしばらく登り詰めていくと、斜面から湯気の出ている場所があった。
 
 出た!遂に最初の源泉が現れた。
 ・・・しかし、この源泉、何か煮えたぎってねーか?相当熱そうだぞ?しかも、このレポの冒頭でも書いたとおり、この香草温泉は、場所によっては硫化水素が発生しているということをタマチャリンさんから事前に聞いていた。こんな洞窟状の源泉なんて、入ったらマジでやべぇんじゃないのか・・・。
 ということで、ここは割と本気でビビリながら、呼吸を抑えて足早に通過した・・・。
 
 そのすぐ外にも、湯が溜まった窪みがあったが、この毒々しい緑と黄色のストライプは何なんだ・・・。まあもさん入るかな、と思ったけどさすがにそれは無かった。
 
 沢沿いの岩場も、滝の前と比べて格段に滑りやすくなっている。こんなルートだが、タマチャリンさんは意気揚々と駆け上がっていく。この辺りまで来ると、本気で帰りのことが心配になって来た。こんなとこ、本当に下って戻れるのかな?お、温泉はまだか・・・!
 
 見てくれ、この高度感を!まあもさんはこの日の為にヘルメットを購入してきたが、本当に正解だったかもしれない・・・。
 
 そして、いよいよこの日最難関の地点が現れた!
 タマチャリンさんが掴んでいるロープの先に、もうひとつ崖に垂れているロープが見えているのが分かると思う。
 
 その垂直に垂れたロープがどこに繋がっているのかと言うと、驚いたことにその上で水平に張られたロープに結ばれているだけだ。ここを登るにはまずこの垂直ロープを掴むしかないのだが、これを引っ張れば、その上で水平に張られたロープは当然たわむ・・・。こんな足場に踏ん張りの利かない崖で、手ごたえの無いロープを掴んで登り、更に水平ロープに体重移動をしなければならないという地獄のようなルート!マジか、ここまでの場所とは比較にならないほど一気に難易度が上がった感ある・・・。
 
 そんな難所にも、果敢に先陣を切って挑むタマチャリンさん!とりあえず本当に登れることは分かった・・・。
 
 続いて俺も登ってみたが、ここ、水平区間に入ったら入ったで、僅か数cm幅の足場には苔や草が生い茂り、油断したら本当に滑落してもおかしくない場所だった。こ、こんなところでレスキューを呼ぶ訳にはいかないんだっ!!
 
 最後にまあもさんが登って来たところを振り返って撮影。この写真で、ここがどれだけクレイジーな場所かということが伝わると思う。ってか、ここを登ってきて改めて思うけど、こんな場所にこのロープを張った人って一体何物なんだ!凄すぎねぇか!?
 
 その難所を越えたところで、岩に「4」と書かれた場所があった。ここから源泉が湧き出ている様子は無かったが、香草温泉にはいくつかある湯船にナンバリングがされているらしい。ただ、ここ以外でその番号に気づくことは無かった。
 
 ふと見上げると、白根山の稜線がもうすぐそこまで迫っている。既に周囲には硫黄の匂いも漂い、温泉が近いことを肌で感じている。まだか、香草はまだか・・・!
 
 振り返れば、その景色からいつの間にかとてつもない高所に登って来たことを実感した。そして、再び山頂方向に目を遣れば・・・。
 
来たぞ!!
香草温泉!!

 
Bへ続く。