寳登山神社(奥宮)
 
 
 寳登山神社奥宮の鳥居。
 ロープウェーなどを利用するとこちらから来ることができますが、林道本山根線からの登山道を登ってくると、奥宮の裏手から入ることになります。
 
 寳登山神社奥宮。手前に1対のご眷属さま(寳登山神社ではこう呼んでいるそう)が置かれています。
 日本武尊が東国平定の折、この宝登山の姿に惹かれて分け入ったところ、突然炎に包まれてしまった。そこに山犬たちが現れて火を消し止め、山頂まで無事に案内したところから、尊が山犬たちを山の神の使いと悟られたということから、ここにご眷属さまが祀られるようになったとのことです。
 
 向かって右手、こちらが阿形。
 
 向かって左手が吽形。
 ともに、眷属としての威厳と生物としてのリアリティを共存させたような凛々しい造形が印象的です。
 
 阿形の体に対して正面位置、やや見上げた位置から。このアングルで見ると、精悍さがより際立っているように感じます。
 
 お顔のアップ。犬歯や口の中に並ぶ歯など、とても細やかな造形が成され、さらに頬に象られた渦巻や、口元の尖った毛並のような意匠などは、眷属としての存在感を際立たせるのに一役買っています。
 
 後ろ姿。ニホンオオカミの特徴とされる、あばらの浮き出た痩身体型がとてもよく表され、触れれば体温すら感じそうな生命感を強く表しています。
 
 足元を見ると、爪の造形もしっかりと成されていることがわかります。細部まで行き届いたとても細やかな造形です。
 
 尾は、波打ったような形状が後ろ足を巻き込むように形づくられています。こういった細やかな造形が、この像の生命感をさらに増しているようです。
 
 こちらは吽形。やや見上げるアングルで。しなやかなシルエットが表現された実に美しい姿です。
 
 お顔のアップ。阿形同様の各部の意匠が施されていますが、やはり他のお犬様とも同じように、吽形は阿形と比べ、口を閉じた造形もあって迫力を感じさせつつも、より落ち着いた雰囲気を漂わせています。
 
 後ろ姿。息づかいを感じそうなほど生命感に溢れた造形です。
 
 筋肉や筋まで表現された後ろ足の造形も、とても素晴らしい仕上がりです。
 
 台座には「昭和六年十一月」と記されています。
 
 ここまでの写真を見て気づいた人もいるかもしれませんが、この寳登山神社奥宮のご眷属さまは、秩父市の贄川にある猪狩神社のお犬さまの姿と酷似しています。阿吽の置かれた位置こそ左右逆転していますが、体型や姿勢、表情や各部の意匠など、細部に至るまで共通する部分が多く見て取れることが分かると思います。猪狩神社のお犬さまは昭和八年の奉納なので、もしかするとこの寳登山神社奥宮のご眷属さまを参考に造られたのかもしれません。それが、直接関係ある石工の手によるものか、他の石工があくまでも造形の参考にしただけなのかは分かりませんが、造形面ではこちらのご眷属さまを参考に猪狩神社のお犬さまが造られたと見てほぼ間違いないと思います。
 
 阿形・吽形ともに、お顔の側面に渦巻き状や筋状の意匠が施されています。この意匠は秩父市吉田の椋神社のお犬さまなどにも見られますが、こういった点からも、何かしら贄川の猪狩神社のお犬さまに影響を与えていると考えます。
 
 奥宮に参拝して中を覗くと、そこに小さなオオカミの石像が置かれていることに気がつきました。
 
 この像は阿吽としての造形の違いは無いようですが、向かって左手の像は正面を見据え、右手の像は上を見上げるような造形が成されています。小さいながらもしっかりとオオカミ、そして眷属としての威厳を感じさせる姿だと感じます。
 
 この奥宮、宝登山の山頂と言う立地ながら、ロープウェーなどで気軽に訪れることができるということもあって、たくさんの人で賑わっていました。
 (写真では伝わらないかと思いますが、この写真も人が途切れた瞬間を狙って撮りました。)
 
 寳登山神社奥宮の解説板。
 (クリックすると拡大画像が開きます。)