林道での長い夜を越えて
2013/10/14 福島林道ツーリング・2日目-@ 林道本名室谷線〜林道一ノ渡戸・四ツ屋線
 
1日目はこちら。
 
 再び眠りについてからどれくらい経ったのだろう。やはりあまりにも早い就寝も考えもので、またしてもふっと眠りから覚めてしまった。そのまま何をするでもなくまどろんでいると、ふと道の下の方から、微かにジャリジャリという物音が響いてくる。一瞬自分の耳を疑ったが、決して幻聴などではない。これは・・・車か?麓から峠に向けて徐々に上ってくるその音は、やはり車の走行音のようだ。タイヤが砂利を踏みしめる特有の音にしばらく聞き耳を立てていると、すぐ近くまで迫ってきたその車のヘッドライトに照らされて俄かにテント内が明るくなり、車はそのままテントを通過して峠へと向かって行った。まさか、誰も来るはずが無いだろうと思い込んでいた、こんな真夜中の林道に人が来るなんて・・・一体何しに?まさか不法投棄とかじゃないだろうな?いや、もしかしてもっと重大な事件とかじゃ・・・!?そう思った瞬間、体中にぞわっとした嫌な感触が走る。聞き耳を立てたままその車の音を追っていると、この先で180度ターンするカーブを越えて程なく峠へと着いたその車は、エンジンを切って少しの間停車していたようだが、再びエンジンを掛けると、またこちらへ向かって下ってきた。ダートなので非常にゆっくりとした速度で走っているようだが、再び俺のテントの脇を通過すると、そのすぐ先で、その車が・・・停車した。エンジンが停止し、ドアの開く音が響き、運転手と思わしき人物が降りてきて、他に何の音もしない闇の中で、この周囲をゆっくりと歩きわまる、ジャリッ、ジャリッ、という足音だけが響く。
 
 さっきの鹿の足音にも驚いたが、今度はそんなものの比じゃない。シュラフに包まったままの体中にビリッとした緊張が走る。何でわざわざテントに横付けして停まるんだよ!?俺に何か用か!?やはり何かしらの事件に関わっていて、たまたまその現場に居合わせてしまった俺は口封じをされてしまうのか!?
 しかし、相変わらずその人物は動き回ってはいるようだが、しばらく経ってもこちらへ向かってくる様子は無い。まあ事件云々は考え過ぎだとしても、相手の正体もわからないまま朝まで過ごすのも気持ちが悪い。ランタンを持ってテントから這い出し、意を決して相手に近付き「こんばんは〜」と極力警戒感を臭わせないように声を掛ける。
 
 何のことは無い、その人はここからの夜明けの景色を撮影するためにやって来たのだそうだ。見ると確かに、路肩に2台のカメラをセッティングして撮影の準備を始めていた。結局、ここへ停車したというのも、ここがこの道で一番のビュースポットだったからというだけのようだ。
 「起こしちゃって悪かったね」と、物腰の柔らかそうな笑顔で話しかけてくる。いや、もともと目が覚めてたんでそれはいいんスけど、ホントにびっくりしましたよ・・・。
 「それにしてもこんなところで一人でキャンプなんて勇気あるねぇ。熊が出るかもしれないよ?」
 いや、そういえばさっき、すぐ近くに鹿が出たんですけど、・・・すっごい怖かったっす。そう伝えると、ははっ、と笑っていた。
 新潟からやって来たというその人(以下、便宜的に「撮影さん」と呼びます)は、ここには何度も来ているらしく、まだ暗い闇の中に薄っすらと見える遥か先の稜線を見て、
 「ちょうどこっちから陽が昇るんだ。でも今日は晴れてるからつまんないよ。少し雲が出てると朝焼けが綺麗なんだけど」と言う。そして、そんな話をしている間も、地平線に向かって流れ星が、ひとつ、ふたつと落ちていく。
 そういえば今何時なんだろ?時刻を尋ねると、4時少し前らしい。ちなみに日の出の時刻を尋ねると5時半頃とのこと。今日は5時には起きようと思っていたが、もし一度起きて外が真っ暗だったら、明るくなるまで二度寝してしまっていたかもしれない。撮影さんに聞いた日の出の時刻より少し前にアラームを設定しなおし、もう一度満天の星空を眺め、あとひと眠りすることにした。
 
 5時20分に起床し、撮影さんに朝のあいさつをする。さっそく朝食にでもしようかと支度を始めていると、そろそろ日の出だと撮影さんが言う。その言葉に促され、路肩に立ち、まだ薄暗いシルエットの稜線を見つめていると、次第に空と地平線の境界から仄かな光が射して来た。もうすぐ太陽が昇る・・・。
 
 改めまして、おはようございます。眼下に広がる雲海が、眩しい朝日に照らされ黄金色に輝いている。ちなみに、上の日の出の画像で、左のほうに見える尖った山、あれが磐梯山だそうだ。
 夜通し撮影を続けていた撮影さんは、椅子にもたれて休憩中です。そういえば、新潟からここに来たってことは、だいぶ大周りをしてきたってことですよね?
 「うん、2時間半か、3時間くらいかな。(峠を指差し)こっちが通れればもっと早く来れるんだけど」
 ですよね・・・お疲れ様です。ちなみにこの林道の新潟側、数年前に起きた土砂災害が通行止めの原因なのだそうだ。やはり昨日無理して下って行かないで良かったかも。
 撮影さんは、雲が出ていれば朝焼けが綺麗、と言っていたが、俺にしてみればじゅうぶん美しい日の出を見ることが出来て大満足だし、これより更に綺麗な景色ってのもちょっと想像つかないんだけど(笑)。でも、この夜明けを見ることが出来たのも撮影さんのおかげだなー、ホントありがとうございます。この後、夜中に撮ったという星空の写真も見せてもらったのだが、こちらも降るような星々が鮮明に映し出されていた。こんな星空、俺のコンデジじゃ望むべくも無いからなあ、羨ましいぜ。
 夜が明けるまで周囲はひんやりとした空気に包まれていたが、太陽の光を全身に浴びていると一気に暖かくなってくる。そんな自然の空気の変化を肌で感じながら、改めて朝食の準備に取り掛かる。
 
 今日の朝食は、カニクリームソースのペンネ・またしてもウインナー入り(笑)。日中、山の中で腹が減るのも嫌なので少し多めに茹でたんだけど、ちょっと多過ぎたみたい。ゲフッ。
 簡単に飯を済ませたら、早速撤収の準備だ。
 
 すっかり夜も開けた。先ほどの日の出も綺麗だったが、青空の下の雲海もまた幻想的でとても美しい。
 
 7:30AM、撤収完了。初めての林道での野営で、こんなに素晴らしい景色を見ることが出来たなんて本当にラッキーだったな。長い夜だったが、なかなか楽しかったぜ(笑)。
 昼過ぎ頃までここでゆっくりしていくという撮影さんに別れを告げ、一旦峠まで向かった後、次の目的の林道へと向かうことにしよう。
 
 再び峠へやってきた。別に向こう側へ下って行こうとか、何をするわけでもないのだが、戻る前にもう一度ここまで上って来たかったのだ。
 
 ん、「林道本名津川線」?これって、ここから新潟側の名称か?それとも、本名室谷線から名前が変わった?そういえば、起点にあった林道概略図で、「本名室谷線」の「室谷」の部分に隠した形跡があったのが気にはなったが、結局、ここの正式名称って何なんだろう。
 
 さあ、今度こそ下って行くとしよう。本名室谷線、本当に素晴らしい林道だった。
 
 昨日、西日に照らされて見た山々も、空色の溶け込んだ朝の空気に包まれた姿を見ると、また違った美しさがある。
 
 そして、標高を下げてくるということは当然あの雲海の中を通過して行くワケで・・・。
 
 おお、これは凄い!雲海のほぼ真横だ(笑)。雲の上にもうっすらと靄が漂い、なんとも不思議な光景を描き出している。
 
 さらに標高を下げ雲海の中に突入する。周囲には細かい霧が舞い始め、ほんの少し先も真っ白で何も見えない。でも、この景色も道を下り続けるにつれ、すぐに途切れる。
 
 青空復活!今日も一日楽しめそうだぜ!
 
 さらば林道本名室谷線!いつの日かまた来るぞ!
 
 R252を走行中、ふと只見川を渡る橋が見えた。JR只見線のようだが・・・。
 
 え・・・橋桁が無い?一体何事かと思ったが、これは2011年の新潟・福島豪雨によるもののようで、ここは第5只見川橋梁のようだが、他にもこの只見川沿いでは各所でとてつもない甚大な被害が起きたようだ。現場ではこの日も早朝から復旧工事の真っ最中だった。一日も早い復旧をお祈りします・・・。
 

 その後、R400へと入ったのだが、このすぐ近くに沼沢湖ってのがあるらしい。普段、林道ツーの途中ではあまり観光地的なところには立ち寄らない俺ではあるが、ここから距離もそう遠くないようだし、まだ時間も早いからちょっと寄ってってみようかな。
 
 う、うーん・・・来てみたはいいけど、湖畔近くまでは車両の乗り入れも禁止だし、何よりこの湖畔、いかにもな観光地というものではなく、キャンプサイトになっていた。突如現れた場違いなライダーの姿に、(なんだこの人?)とでも言いたげなキャンパーの視線が突き刺さる・・・。正直、わざわざ来なくても良かったかな(笑)。
 この後、R400〜R401と、かなり長い距離を走り継いで次の林道を目指す。
 
 や、やっと着いた!広域基幹林道一ノ渡戸・四ツ屋線(ツーリングマップル関東甲信越P97・F−3)である!ここは3年前にも一度走っているが、今回は前回と逆側であるこちらの終点側から入っていく。
 
 天気は申し分なし!果たして今回はどんな表情を見せてくれるだろうか。
 
 おお、そうそう、この山々!よく憶えてるぞ!
 
 この林道も、奥まで進んでいくとなかなか良い眺めの場所があるんだよな。楽しみだぜ!
 
 雲一つ無い青空の下、朝の空気を吸い込んだ山々が緑に輝く。最高に爽快な気分だ。
 
 しばらく進むとトンネルが現れる。「大戸トンネル」という扁額の埋め込まれたポータルは、その両脇に城と鶴の意匠が彫り込まれている。
 
 これは若松城か?林道のトンネルのポータルなんて、何の飾りっ気も無いつるっとした打ちっぱなしのコンクリートがほとんどだと思うんだけど、こんな飾りを付けているなんてちょっと珍しいな。さすが広域基幹林道だ(?)。
 
 トンネルを抜けると、そのまま橋へと続いている。橋の上から見る山肌は、微かに赤味を帯び始めている。今年はなかなか寒くならないけど、あともう少ししたら一気に鮮やかな色合いを見せるのだろうな。
 
 そうそう、一ノ渡戸・四ツ屋線といえばここだよ!
 
 道の外側に、周囲の山々が押し寄せるようにひしめき合っている。昨日の七ヶ岳線や本名室谷線のように、遥か遠くまで見渡せる開けた景色も素晴らしいが、こうやって山々に包まれているような景色もまた大好きなのだ。
 
 こんなに良い天気の中、こんな美しい山の中を走れて、もう最高の気分だぜぇい!
 
 しばらくすると、道は森の中に吸い込まれていく。せっかくの広葉樹林だが、やはり今年は紅葉にはまだだいぶ早かったようだ。もっとも、こういった緑の景色もそれはそれでまた素晴らしいんだけどね。
 
 そんな森の中を気分よく走ってくると・・・ちょ、ちょっと!
 
 つ、通行止め!?しかも、通行止めの区間って、今俺が走ってきたこっち側じゃねーかよ!確かに途中で雨裂が深く掘られたところもあるにはあったが、おっかしーなあ、この林道に入ってきてから、他にバリケードのようなものも見掛けなかったんだが・・・どこかで見落として来たのかな?
 
 とにかく、ここから先はまっとうな通行可能区間となるので、スーパーイリュージョンを発動してバリケードを突破し、通行止め区間を脱出だ!
 
 久しぶりの一ノ渡戸・四ツ屋線もそろそろ終盤。ところどころ砂利深いところもあってヒヤッとすることもあったが(笑)、雲一つない青空に包まれて、実に爽快な気分だったぜ!
 
 15km程もあるダートを走りきり、この林道の起点に到着。ここもいい林道だったなー。
 って、あれ?BAJA君が寝ているよ?久々の長距離ツーで疲れちゃったのかな?

 「・・・いやいや、こんな地盤の緩いところに私をお停めなさったのはナノレカワ、貴方ですけど?」

 ・・・そう、ちょうどBAJAを停めた路盤が水分を含んでだいぶ柔らかくなっていたようで、写真を撮ろうとちょっと離れた隙に、サイドスタンドが地面にめり込んで、カメラを構えた俺の目の前でそのまま倒れてしまった。しかも、路面に傾斜が付いていたために、引き起こすのに物凄く難儀してしまった・・・。
 とりあえずキャリアから荷物を外し、なんとか引き起こそうとBAJAと格闘していると、ちょうどこの起点の前を通る県道を1台の車が通過して行ったのだが、ようやく引き起こしに成功して一息ついていると、さっき通過して行ったあの車が引き返してきて、この起点の前で停まった。なんだろう?と思っていると、後部座席から降りて来たおばあさんが俺に近付いてきて、
 
 「転んだの?大丈夫?」
 
 と声を掛けてくれた。なんでも、こんなところでは携帯の電波も入らないし、何かあったのでは大変だと思い、わざわざ引き返してきてくれたのだそうだ。クーッ!な、なんて良い人なんだあ!こんなところで写真を撮ろうとしてバイクが勝手に倒れただけなのに、そんな俺を気に掛けてくれたのが非ッ常に申し訳ない!
 とりあえず、身体は無事なことを猛アピールして、わざわざ戻ってきてくれたことに対してお礼を述べると、おばあさんも一安心したようで、再び車に乗って走り去って行った。こういうところで遇う人って、本当に良い人ばかりなんだよなあ。まったく嬉しくなっちまうぜ。
 
 さあ、この後はもう一本林道を走り抜けて、ここまで来たら立ち寄っておきたかった目的地へと向かおう。
 
Aへ続く。